子宮腺筋症〔しきゅうせんきんしょう〕
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮筋層内にでき、病変やその周囲の子宮筋層が厚く肥大する良性の病気です。子宮腺筋症のため子宮が顕著に肥大することがあります。いっぽう、子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所にできる病気で、発生場所により病名が区別されています。日本の女性の5~70%(平均20~30%)が子宮腺筋症に罹患(りかん)すると推測されています。子宮筋腫や子宮内膜症をしばしば合併します。症状としては、月経痛、月経過多、貧血、不正性器出血などが典型的なものですが、不妊、流産、早産の原因になることもあります。月経痛や月経過多の症状が強くなってくる年齢は30歳代後半から40歳代が中心です。日本女性のデータでは、子宮腺筋症とはじめて診断される年齢は平均38歳です。
[原因]
子宮腺筋症の発生起源についてはまだ不明な点が多いのですが、次のいくつかの仮説が考えられています。1つめとして、本来子宮の内側の粘膜である子宮内膜が内側から直接子宮筋層内に浸潤してできたという説、2つめとして、子宮筋層の外側の漿膜(しょうまく)にできた子宮内膜症が外側から子宮筋層内に浸潤してできたという説、3つめとして、胎児の発生の過程で子宮内膜のもととなる組織が子宮筋層内に存在していてそこから病変が発生したという説、などが考えられています。
子宮腺筋症による子宮内腔の拡張や変形、子宮収縮のアンバランス化、子宮収縮の異常亢進(こうしん)などにより、月経痛、月経過多、不正出血などの症状や不妊・流産・早産がひき起こされると推測されています。卵巣から分泌される性ホルモンであるエストロゲンによって病気が進行し症状が悪化するため、エストロゲンの作用を抑えるホルモン療法が薬物療法として取り入れられています。
[症状]
自覚症状や徴候を大きく分けると、子宮からの出血、痛み、妊娠に関するもの、の3つに分類されます。子宮からの出血による症状として、月経過多、不正性器出血、貧血などがあげられます。痛みの症状として、月経痛、月経時以外の下腹痛や腰痛、性交痛、排便痛があげられます。妊娠にかかわる徴候として、不妊、流産、早産があげられます。月経痛と月経過多が子宮腺筋症のおもな症状です。子宮腺筋症患者さんの約8割が月経痛および月経過多の症状がひどくなり産婦人科を受診し、検査をおこない診断されます。
いっぽうで、不妊を契機に受診して検査で子宮腺筋症が見つかるケースは5%と少ないのが実情です。子宮腺筋症に罹患した場合に必ずしも不妊になるわけではありませんが、子宮腺筋症を合併した不妊患者さんを対象とした最近の調査では、体外受精・胚移植による妊娠率が低下し、流産率が上昇することがわかってきました。また、子宮腺筋症を合併した妊婦さんでは流産や早産が増加することもわかってきました。子どもを希望する子宮腺筋症の方は必要に応じて早めに不妊の検査や治療をおこなったり、妊娠した場合には流産や早産の徴候に注意しながら妊娠経過をみていったりする必要があるかもしれません。
[診断]
内診と超音波(エコー)検査で診断しますが、子宮筋腫や子宮肉腫と鑑別する必要がある場合や子宮腺筋症の位置やひろがりを詳細に調べる場合にはMRI(磁気共鳴画像法)がおこなわれます。子宮筋腫では病変と筋層との境界が明瞭に区別できるのに対して、子宮腺筋症では境界が不明瞭なのが特徴です。月経過多がある場合には貧血を伴うかどうかをみるために血液検査をおこないます。また、子宮内膜症と同様に血液のCA125が上昇することがあります。
[治療]
自覚症状が強い場合には、ホルモン療法や手術療法で治療をおこないます。ホルモン療法としては、閉経後と同等の低エストロゲン状態にするGnRHアナログ(アゴニスト)がもっとも強力なホルモン療法として使用されています。低エストロゲン状態となり更年期様症状や骨量低下などの副作用が強く出るため、原則6カ月を超えて長期に使用することはできません。経口黄体ホルモン薬であるジエノゲストはGnRHアナログよりも弱いエストロゲン抑制作用によって子宮腺筋症の痛みを抑え、長期間使用が可能です。少量の不正性器出血が副作用として起こりますが、子宮が大きい場合や貧血がひどい場合などはまれに大量出血を起こすことがありますので注意が必要です。また黄体ホルモンを含有した器具を子宮内に留置する黄体ホルモン(レボノルゲストレル)放出子宮内システムは直接的に子宮内膜を薄くする作用により、月経量を減らし月経痛をやわらげます。子宮が大きい場合には自然に器具が脱落しやすくなります。
手術療法としては、子どもを望まない40歳以上であれば、子宮すべてを摘出する子宮全摘術が根治手術としておこなわれます。子宮の状態に応じて、腹式手術、腟式手術、ロボット支援下手術や腹腔(ふくくう)鏡下手術が選択されます。子どもを望む場合は、子宮腺筋症病変のみを摘出する手術(子宮腺筋症病巣除去術)がおこなわれる場合がありますが、現時点(2023年9月)では保険適用の手術にはなっていません。
[原因]
子宮腺筋症の発生起源についてはまだ不明な点が多いのですが、次のいくつかの仮説が考えられています。1つめとして、本来子宮の内側の粘膜である子宮内膜が内側から直接子宮筋層内に浸潤してできたという説、2つめとして、子宮筋層の外側の漿膜(しょうまく)にできた子宮内膜症が外側から子宮筋層内に浸潤してできたという説、3つめとして、胎児の発生の過程で子宮内膜のもととなる組織が子宮筋層内に存在していてそこから病変が発生したという説、などが考えられています。
子宮腺筋症による子宮内腔の拡張や変形、子宮収縮のアンバランス化、子宮収縮の異常亢進(こうしん)などにより、月経痛、月経過多、不正出血などの症状や不妊・流産・早産がひき起こされると推測されています。卵巣から分泌される性ホルモンであるエストロゲンによって病気が進行し症状が悪化するため、エストロゲンの作用を抑えるホルモン療法が薬物療法として取り入れられています。
[症状]
自覚症状や徴候を大きく分けると、子宮からの出血、痛み、妊娠に関するもの、の3つに分類されます。子宮からの出血による症状として、月経過多、不正性器出血、貧血などがあげられます。痛みの症状として、月経痛、月経時以外の下腹痛や腰痛、性交痛、排便痛があげられます。妊娠にかかわる徴候として、不妊、流産、早産があげられます。月経痛と月経過多が子宮腺筋症のおもな症状です。子宮腺筋症患者さんの約8割が月経痛および月経過多の症状がひどくなり産婦人科を受診し、検査をおこない診断されます。
いっぽうで、不妊を契機に受診して検査で子宮腺筋症が見つかるケースは5%と少ないのが実情です。子宮腺筋症に罹患した場合に必ずしも不妊になるわけではありませんが、子宮腺筋症を合併した不妊患者さんを対象とした最近の調査では、体外受精・胚移植による妊娠率が低下し、流産率が上昇することがわかってきました。また、子宮腺筋症を合併した妊婦さんでは流産や早産が増加することもわかってきました。子どもを希望する子宮腺筋症の方は必要に応じて早めに不妊の検査や治療をおこなったり、妊娠した場合には流産や早産の徴候に注意しながら妊娠経過をみていったりする必要があるかもしれません。
[診断]
内診と超音波(エコー)検査で診断しますが、子宮筋腫や子宮肉腫と鑑別する必要がある場合や子宮腺筋症の位置やひろがりを詳細に調べる場合にはMRI(磁気共鳴画像法)がおこなわれます。子宮筋腫では病変と筋層との境界が明瞭に区別できるのに対して、子宮腺筋症では境界が不明瞭なのが特徴です。月経過多がある場合には貧血を伴うかどうかをみるために血液検査をおこないます。また、子宮内膜症と同様に血液のCA125が上昇することがあります。
[治療]
自覚症状が強い場合には、ホルモン療法や手術療法で治療をおこないます。ホルモン療法としては、閉経後と同等の低エストロゲン状態にするGnRHアナログ(アゴニスト)がもっとも強力なホルモン療法として使用されています。低エストロゲン状態となり更年期様症状や骨量低下などの副作用が強く出るため、原則6カ月を超えて長期に使用することはできません。経口黄体ホルモン薬であるジエノゲストはGnRHアナログよりも弱いエストロゲン抑制作用によって子宮腺筋症の痛みを抑え、長期間使用が可能です。少量の不正性器出血が副作用として起こりますが、子宮が大きい場合や貧血がひどい場合などはまれに大量出血を起こすことがありますので注意が必要です。また黄体ホルモンを含有した器具を子宮内に留置する黄体ホルモン(レボノルゲストレル)放出子宮内システムは直接的に子宮内膜を薄くする作用により、月経量を減らし月経痛をやわらげます。子宮が大きい場合には自然に器具が脱落しやすくなります。
手術療法としては、子どもを望まない40歳以上であれば、子宮すべてを摘出する子宮全摘術が根治手術としておこなわれます。子宮の状態に応じて、腹式手術、腟式手術、ロボット支援下手術や腹腔(ふくくう)鏡下手術が選択されます。子どもを望む場合は、子宮腺筋症病変のみを摘出する手術(子宮腺筋症病巣除去術)がおこなわれる場合がありますが、現時点(2023年9月)では保険適用の手術にはなっていません。
(執筆・監修:東京大学大学院医学系研究科 教授〔産婦人科学〕 廣田 泰)