がん腫〔がんしゅ〕 家庭の医学

 口の中にできる悪性腫瘍ではもっとも多く、そのほとんどは扁平上皮がんです。

 口の中のがんでは、その後の機能回復をおこなうための治療も重要です。
 口にできるがん(腫)の発生に関与する因子として喫煙、飲酒、嗜好(しこう)物、慢性刺激(不衛生な口腔〈こうくう〉環境、あわない義歯など)などが考えられています。しかしながら、がんを未然に防ぐことは現在の医学では困難なため、早期に発見し、早期に治療することが大切です。これらのことは治療による機能障害を防ぐうえでも重要です。そのため、かかりつけ歯科医による歯だけでなく、口の中全体の定期健診が重要です。

■舌がん
 口の中のがん(腫)ではもっとも多いもので、ほとんどは舌の縁に発生しますが、舌背(ぜつはい)に発生することもあります。
 初期のがんでは、粘膜のびらんだけで痛みを伴うことが少なく、口内炎との鑑別が困難なことが多いのですが、がんは自然治癒しません。1~2週間しても治癒しなければ口腔(こうくう)外科か耳鼻咽喉科を受診してください。
 進行すると筋肉に浸潤(しんじゅん)してうまく動かせなくなるため、言語障害や摂食障害が出てきます。ほかの部位のがんより頸部リンパ節への転移を起こしやすいのも特徴です。


[治療]
 初期では周囲の健康な組織を含めた舌部分切除術や放射線治療(組織内照射)、重粒子線治療などがおこなわれます。いずれも機能障害をできるだけ少なくして治癒することができますが、進行がんで舌の半分以上切除する場合は、からだの別のところの皮膚や筋肉を移植し舌のかたちをつくります。頸部リンパ節への転移に対しては、頸部リンパ節郭清(かくせい)術をおこないます。

■歯肉がん
 口の中のがん(腫)では、舌がんの次に多いものです。初期には無症状に経過することが多く、歯周病や歯肉にできる良性腫瘍と似ています。歯の動揺をきたし、抜歯を契機に急速に増大が進むこともあります。下の歯肉に発生したがんを下顎(かがく)歯肉がんといいますが、進行すると顎骨を吸収し、下あごの中を走行している下顎神経に浸潤すると下くちびるの知覚まひや神経痛様の痛みが出現します。


[治療]
 手術を主体とし、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療がおこなわれます。免疫チェックポイント阻害薬を用いた免疫治療がおこなわれることもあります。下あごを切除した場合、金属プレートやからだのほかの骨を移植して下あごを再建します。上あご歯肉がんでは、栄養血管である顎動脈にチューブを留置し、抗がん薬を流す治療(動注療法)と放射線療法との組み合わせの治療もおこなわれます。

■口底がん
 舌の下の口の底にできるがんです。初期は症状がなく、自分では鏡で見えにくいため発見が遅れることがあります。進行すると舌と下あごの両方に浸潤します。そのため、舌がんと歯肉がんをあわせたような治療をおこなうことがあります。頸部リンパ節転移を起こすことも多く、口底がんと頸部組織をいっしょに摘出する手術がおこなわれます。

■口唇がん
 口にできるがんのなかでもっとも少なく、日本では非常に少ないのが特徴です。上くちびるよりも下くちびるに多く、頸部リンパ節転移は少ないとされています。放射線治療がよく効きますが、小さなものは手術で切除します。

(執筆・監修:東京大学 名誉教授/JR東京総合病院 名誉院長 髙戸 毅)
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