がん腫〔がんしゅ〕

 口の中にできる悪性腫瘍ではもっとも多く、そのほとんどは扁平上皮がんです。

 ついで腺系のがんがみられます。できる場所によって口唇がん、頬(きょう)粘膜がん、歯肉(しにく)がん、舌がん、口底がん、硬口蓋(こうこうがい)がん、顎骨(がくこつ)中心性がん、上顎洞(じょうがくどう)がんなどに分けられますが、舌にもっとも多く発生します。男性が女性より多く、40歳以上に多くみられます。

[症状]
 さまざまな症状がみられますが、その特徴から次のような臨床状態に分類されます。
 粘膜表面に潰瘍(かいよう)を形成したもの(潰瘍型)、境界がはっきりしない粘膜のただれ、びらんを形成したもの(びらん型)、いわゆるいぼのようなかたちをしたもの(乳頭型)、周囲よりわずかに隆起した白斑(はくはん)の中にびらんや潰瘍を形成したもの(白板型)、表面に小顆粒(かりゅう)が密集したもの(肉芽〈にくげ〉型)、粘膜の表面に潰瘍などをつくらず、粘膜の下にかたまりとしてみられるもの(膨隆型)などです。
 いずれの状態でも周囲がかたくなっていることが特徴です。
 初期には痛みなどの症状はありませんが、進行するにつれ食事時の痛み、出血、口があけづらいなどのさまざまな症状が出現します。痛みがあまりなくても粘膜に異常があり、1~2週間しても治る感じのないときにはがんの可能性があります。
 くびのリンパ節、特にあごの下のリンパ節に転移することがあります(頸〈けい)〉部リンパ節転移)。ぐりぐりしたかたまりとして触れることができます。さらに血液を通じて肺、肝臓などの全身に転移することがあります。

[診断]
 確定診断は生検(組織の一部を切除する)をおこない、病理組織学的に診断されます。
 頸部リンパ節転移についてはCT検査(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)検査、頸部超音波(エコー)検査をおこない診断されます。全身への転移に関しては腫瘍シンチグラフィ検査、最近ではPET検査などで診断します。

[治療]
 初期のものには外科的療法や放射線療法が単独におこなわれることが多いのですが、進行したものには外科的療法、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療がおこなわれます。さらに欠損した部位を修復するために皮膚、筋肉、骨などを栄養血管とともに移植する(マイクロサージェリーによる)再建手術を同時におこなうこともあります。
 頸部リンパ節転移に対しては頸動脈、迷走神経、横隔神経、舌下神経を除いた筋肉、脂肪組織、リンパ節組織を1つのかたまりとして切除する頸部郭清(けいぶかくせい)術がおこなわれます。小さな手術では機能障害は少ないものの、大きな手術では摂食障害、構音障害、嚥下(えんげ)障害が残ります。
 さまざまな治療法の開発により生存率が上がっています。初期のがんから進行したがんまであわせて5年生存率は約70%です。口の中のがんでは、その後の機能回復をおこなうための治療も重要です。
 口にできるがん(腫)の発生に関与する因子として喫煙、飲酒、嗜好(しこう)物、慢性刺激(不衛生な口腔〈こうくう〉環境、あわない義歯など)などが考えられています。しかしながら、がんを未然に防ぐことは現在の医学では困難なため、早期に発見し、早期に治療することが大切です。これらのことは治療による機能障害を防ぐうえでも重要です。そのためかかりつけ歯科医による歯だけでなく、口の中全体の定期健診が重要です。

■舌がん
 口の中のがん(腫)ではもっとも多いもので、ほとんどは舌の縁に発生しますが、舌背(ぜつはい)に発生することもあります。
 初期のがんでは、粘膜のびらんだけで痛みを伴うことが少なく、口内炎との鑑別が困難なことが多いのですが、がんは自然治癒しません。1~2週間しても治癒しなければ口腔(こうくう)外科を受診してください。
 進行すると筋肉に浸潤(しんじゅん)してうまく動かせなくなるため、言語障害や摂食障害が出てきます。ほかの部位のがんより頸部リンパ節への転移を起こしやすいのも特徴です。

[治療]
 初期では周囲の健康な組織を含めた舌部分切除術や放射線治療(組織内照射)がおこなわれます。いずれも機能障害をできるだけ少なくして治癒することができますが、進行がんで舌の半分以上切除する場合は、からだの別のところの皮膚や筋肉を移植し舌のかたちをつくります。頸部リンパ節への転移に対しては、頸部リンパ節郭清(かくせい)術をおこないます。

■歯肉がん
 口の中のがん(腫)では、舌がんの次に多いものです。初期には無症状に経過することが多く、歯周病や歯肉にできる良性腫瘍と似ています。歯の動揺をきたし、抜歯を契機に急速に増大が進むこともあります。下の歯肉に発生したがんを下顎(かがく)歯肉がんといいますが、進行すると顎骨を吸収し、下顎の中を走行している下顎神経に浸潤すると下くちびるの知覚まひや神経痛様の痛みが出現します。


[治療]
 手術を主体とし、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療がおこなわれます。下顎を切除した場合、金属プレートやからだのほかの骨を移植して下顎を再建します。上顎歯肉がんでは、栄養血管である顎動脈にチューブを留置し、抗がん薬を流す治療(動注療法)と放射線療法との組み合わせの治療もおこなわれます。

■口底がん
 舌の下の口の底にできるがんです。初期は症状がなく、自分では鏡で見えにくいため発見が遅れることがあります。進行すると舌と下顎の両方に浸潤します。そのため、舌がんと歯肉がんをあわせたような治療をおこなうことがあります。頸部リンパ節転移を起こすことも多く、口底がんと頸部組織をいっしょに摘出する手術がおこなわれます。

■口唇がん
 口にできるがんのなかでもっとも少なく、日本では非常に少ないのが特徴です。上くちびるよりも下くちびるに多く、頸部リンパ節転移は少ないとされています。放射線治療がよく効きますが、小さなものは手術で切除します。
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