薬物アレルギー〔やくぶつあれるぎー〕 家庭の医学

 薬剤が通常示す薬理作用からは予測できない、望ましくない反応が、投与された人の素因・素質にもとづいてあらわれる場合を薬剤過敏症といいます。このうち、薬剤あるいはその代謝産物に対する免疫反応によって出現する反応が薬物アレルギーです。
 薬物アレルギーは、内服や注射、吸入、塗布や点眼によっても症状があらわれます。
 薬物アレルギーの既往者は成人で1~2%です。乳幼児では薬剤を使う機会が少ないため、成人よりもまれです。

[発症のしくみ]
 薬物アレルギーでは、薬剤を投与された人にさまざまな症状が起こりますが、症状の内容は人により薬剤により異なります。薬剤やその代謝産物をアレルゲンとするⅠ~Ⅳ型のアレルギー反応によって発症します(参照:アレルギーの型)。
 薬剤や代謝産物が抗原となってはいないけれども、アレルギー反応と類似した反応がひき起こされ、症状だけからはアレルギー反応と区別できないことがあります。これをアレルギー様反応といいます。ヨード系造影剤によるショックなどのアナフィラキシー類似の過敏症は、アナフィラキシー様反応といわれます。ただし、症状では見分けがつかないので、アナフィラキシー様反応ということばは現在では使うことはほとんどなく、アレルギー反応で生じた場合と同じくアナフィラキシーと呼ぶようになっています。
 アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬や、食物着色料などによって起こるアスピリンぜんそく・アスピリンじんましんもその一つです(参照:ぜんそく)。

[診断]
 薬剤の服用中にもともとの病気や薬の作用とは異なる反応、症状が出現したときには、薬剤による副作用が疑われます。皮膚に発疹として生じることが最も多いのですが、内臓に症状が生じることもあります。
 しかも、次のような場合には、その薬が原因となっている可能性がかなり高いと考えられます。
 1.その症状が典型的なアレルギー反応のどれかに似ている。
 2.症状がその薬の使用中に出現した(特に使用開始直後から1~2週間以内に出現した症状は要注意)。
 3.以前にも同じ薬でなんらかのアレルギー症状を起こしたことがある。
 4.血液検査で好酸球(こうさんきゅう)が増加している。
 薬物アレルギーが疑われたときは、医師の指示により推定原因薬剤を中止します。薬剤の中止により症状がすみやかに軽快したときは、中止した薬剤が原因である可能性が高いと考えられます。そして、ふたたび少量で使用して症状が同じように生じるかを調べる方法が誘発試験であり、原因薬剤であることを確実に証明できます。ただし、この誘発試験は、薬とその人の症状によっては危険性があり、おこなう必要があるかどうかを慎重に判断しなければなりません。
 薬物アレルギーの診断のために誘発試験を実際に実施する場面はとても少ないといえます。代わりにおこなう検査としては、血液の中に薬剤に対する特異抗体、感作リンパ球があることを証明しますが、小さなクリニックでは検査がおこなえないことが多いです。大きな病院でもできる検査は限られていて、皮膚テスト、リンパ球刺激試験(血液をとり、薬剤といっしょに培養してリンパ球がふえるかどうかを調べる)などであり、正しい結果が確実に出るとはいえないので原因を特定できないこともかなり多いです。

[治療]
 薬剤の副作用が疑われたら、ただちにかかりつけの医師に連絡します。まず、原因薬剤と思われるものはすべて中止して、経過を観察するのが原則です。薬剤を中止するだけで症状が改善することを通じて薬剤が原因とわかります。症状の強いものには、症状を緩和するような対症療法をおこないます。
 ただし、薬によっては急に中止すると、本来の病気の治療に影響が出ることもあります。必ず医師と相談したうえで中止するようにします。

[予防]
 薬物アレルギーと診断がついたら、医師に原因と考えられる薬剤名、副作用の種類を書いてもらい、診療のたびに医師に見せるようにします。お薬手帳にも書いておき、薬をもらうときに薬剤師にも知らせておくようにすると、いろいろと相談に乗ってくれるはずです。

(執筆・監修:帝京大学ちば総合医療センター 第三内科〔呼吸器〕 教授 山口 正雄
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