ハチアレルギー 家庭の医学

[症状]
 ハチに刺された人の多くは、刺された局所の発赤(ほっせき)、熱感、はれなどの症状が出て数日後には消えます。これに対し、約20%の人では全身症状(じんましん、吐き気、嘔吐〈おうと〉、呼吸困難、動悸〈どうき〉など)が出現し、約2~3%の人は血圧低下によるショック症状も生じるといわれています。
 このような全身症状の出現は、ハチに刺されてから30分以内にみられ、治療が遅れると死亡する可能性があります。ハチに刺されて広い範囲のはれが生じる(たとえば腕全体がはれる)場合には、次に刺されたときにアナフィラキシーを起こす可能性が高いといえます。

[原因]
 ハチに刺されたことによるアレルギー症状は、ハチ毒に対するIgE抗体による即時型Ⅰ型アナフィラキシー反応が原因です。
 ハチに刺されるとハチ毒に対する抗体(ハチ毒特異的IgE抗体)をつくるようになります(感作〈かんさ〉が成立するといいます)。そのようなときにまたハチに刺されると、ハチ毒(抗原)とハチ毒特異的IgE抗体との抗原抗体反応によって、マスト(肥満)細胞からヒスタミンなどの活性物質が放出され、アナフィラキシー症状をひき起こします(参照:アレルギーとは)。
 ただし、ハチ毒自体にも刺激性の性質をもつ活性物質が含まれており、多数のハチに刺された場合でも、アナフィラキシー類似の症状が出ることもあります。

[診断]
 ハチに刺されて全身症状が出たことがあり、皮膚テストまたは血液中のハチ毒特異的IgE抗体が陽性であれば、ハチによるアナフィラキシーと診断されます。

[治療][予防]
 ハチに刺されない予防法としては、ハチは黒や花柄模様を好むため白、黄色などの服を着ます。ヘアスプレー、ヘアトニック、香水等のにおいの強い化粧品を避け、ハチがきても追い払ったりしないことです。ハチに刺されたときは、適切な応急処置や緊急治療をおこない、できるだけ早く医療機関を受診します。
 応急処置として、刺されたところを冷やし、手足を刺された場合心臓に近いほうをゴムなどでしばることにより、ハチ毒が全身に拡散するのを遅らせるようにします。全身症状が出た場合、近くの人に助けを求めて救急隊に連絡をとり、仰臥位(ぎょうがい:仰向け)か足を高くする姿勢(ショック体位)を保ち、救急車で早急に受診します。
 アナフィラキシーの治療としてはアドレナリンの筋肉注射がもっとも有効であり、病院の救急治療においてまず使われます。また、病院にたどり着く前に倒れてしまわないよう、アドレナリン自己注射薬を用いて一時的に症状を落ち着かせることができます。ハチ刺されでアナフィラキシー症状が出たことのある人は、携帯用アドレナリン自己注射薬をいつも持ち歩き、ハチに刺されてアレルギー症状がひろがり始めたら、自己注射をしてから救急車を呼び病院に受診します。
 ハチに刺された場合にアナフィラキシーを生じる可能性が高く、体質改善を希望するようなら、ハチ毒を用いた減感作療法(アレルゲン免疫療法)のことを知っておきましょう。少量の皮下注射から開始してだんだんと注射量を増やしていき、最終的に月1回の注射を継続する治療法です。からだがハチ毒に対して慣れてくるため、刺されてもアレルギー症状が出にくくなります。保険適用外のため、国内で数カ所の専門医療機関でのみおこなわれています。

(執筆・監修:帝京大学ちば総合医療センター 第三内科〔呼吸器〕 教授 山口 正雄
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