食道アカラシア(特発性食道拡張症、噴門けいれん)〔しょくどうあからしあ(とくはつせいしょくどうかくちょうしょう、ふんもんけいれん)〕

 食道下端の筋層の運動障害のため、この部分の食道壁が弛緩(しかん)しなくなって起こります。通過障害を起こして胸部食道が拡張し、さらにS字状に蛇行することがあります。この運動障害は、アウエルバッハ神経叢(そう)という食道下端の固有筋層内の神経細胞が変性したために起こるといわれています。

 症状は、食道下端が狭窄(きょうさく)して通過障害となり、嘔吐(おうと)や体重減少がみられます。治療は、保存的な薬物療法としては、筋肉の緊張をとるカルシウム拮抗薬(通常、降圧薬として用いられる)を服用したり、ボツリヌス毒素を局所注入したりすることがあります。
 食道下端の狭窄している部分をバルーンで拡張させる方法で効果があることもありますが、最近は手術が多くおこなわれるようになりました。手術は通常、腹腔(ふくくう)鏡下におこなわれ、狭くなった食道の筋層を切開してひろげ、逆流を防止する修復をします(ヘラー・ドール法)。

 また最近は、経口的に内視鏡をおこない、食道の粘膜下にトンネルをつくって筋層切開をする経口内視鏡的筋層切開(POEM)という方法が開発されています。しかし、どの医療機関でもおこなっているわけではなく、認定された施設でのみ保険適用されます。
 アカラシアでは食道に食物が停滞する時間が長いので、食物中の発がん物質が食道壁に接触する時間が長くなり、正常な人にくらべて食道がん罹患(りかん)率は約30倍高いといわれています。定期的に内視鏡検査を受けるようにしましょう。

(執筆・監修:順天堂大学 名誉教授〔食道胃外科〕 鶴丸 昌彦)
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