急性腸炎〔きゅうせいちょうえん〕

[原因]
 ほとんどがウイルスや細菌が原因の感染性腸炎です。いちばん多い原因はウイルス感染で、ノロウイルス、乳幼児の腸炎の原因となるロタウイルスなどがあり、秋から冬にかけて流行する傾向があります。二枚貝(カキなど)、生魚、生肉などに存在し、直接、汚染された食品を口にする場合と、調理人の手に付いたウイルスで汚染された食品を口にする場合があります。
 細菌には、O-157などの病原性大腸菌(牛肉など)、ブドウ球菌(おにぎりなど)、カンピロバクター(豚肉など)、サルモネラ菌(卵など)、腸炎ビブリオ(カキ、魚介など)などがあり、夏に流行する傾向があります。ほかにも、以前、からしれんこんによる食中毒で有名になったボツリヌス菌などがあります。感染経路は、ウイルスと同様に、汚染された食品を直接食べる場合と調理人を介する場合があります。また、日本ではほとんどみられなくなりましたが、海外旅行、特に東南アジア、発展途上国への渡航の際、汚染された食べ物や生水の摂取によって感染するコレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフス菌などがあります。
 非感染性腸炎は、薬剤、特に抗菌薬の服用、貝類、キノコ類、山菜などの毒素が原因となります。

[症状]
 おもな症状は下痢、腹痛、嘔吐(おうと)です。

■下痢
 下痢の性状によって腸のどこがわるいかを推測できることがあります。粥(かゆ)状から水様の消化不良の便に少量の粘液がまじっている場合は小腸の病変、大量の粘液が便の表面に付着しているときは大腸の病変を疑います。これらの症状に加え、血がまじることもあります。
 乳幼児で起きるロタウイルスによる下痢は、白痢ともいわれ、白色の便が大量に出ます。
 現在では少なくなりましたが、赤痢では、血のまじった下痢便が、コレラでは、米のとぎ汁様の水様便が出ます。病原性大腸菌O-157による腸炎でも血のまじった下痢便が出ることがあり、数日後に溶血性尿毒症症候群という急性の腎障害になることがあるので注意が必要です。
 急性腸炎の下痢の回数は1日2~3回から時には10回以上にもなることがあり、便には特有の悪臭があります。

■腹痛
 腹痛の部位によってもどこがわるいかを推測できることがあります。へそを中心に痛むときは小腸、腹の周辺部が痛むときは大腸の病変が疑われます。腹痛が強くなったり、やわらいだりを数分ごとにくり返す場合と、鈍痛が持続する場合があります。痛みがやわらいでも、それまでに痛みがあった場所を押さえると痛みがあります。

■嘔吐
 吐き気、嘔吐、発熱などがみられます。吐いた物にもウイルスが存在するため、触れると二次感染を起こす可能性があります。また、汚染された洋服などを洗剤で洗うだけではウイルスを完全には除去できません。吐いた物の片付けや、汚染された洋服を洗濯する場合には、ゴム手袋を着用し、次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系の漂白剤を使用すればウイルスを除去することができます。
 これらの症状が続くと、脱水となり口がかわいたり、皮膚がカサカサになったり、尿の量が減って色が濃くなったりします。乳幼児では元気がなくなってきます。元気がなくなってきたらすぐに医師の診察、治療を受けることが大切です。

[治療]
 脱水対策、食事療法、薬物療法をおこないます。数回の下痢でおさまるなど、一過性の症状で軽快する場合は、脱水対策、食事療法をおこなって自宅でようすを見ることができますが、症状が強い場合には、医師の診察を受け、適切な処置をとらなければなりません。特に乳幼児は、急に脱水状態におちいりやすいため、元気がなくなってきたらすぐに医師の診察、治療を受けることが大切です。

■脱水対策
 脱水対策として、塩分・糖分を適度に摂取できる経口補水液が適しています。市販のものでもかまいませんが、自作する場合は、湯冷まし1リットルに対し、砂糖40g、塩3gを混ぜます。やや塩分が多く糖分が少ないため飲みづらいと感じたら、少量の果汁を混ぜると飲みやすくなります。
 そのほか、湯冷ましやスープ、味噌汁の上澄み液を少量ずつこまめに摂取するようにします。サイダー、コーラなどの炭酸飲料類、コーヒー、アルコール類は胃腸への刺激があるので飲んではいけません。

■食事療法
 食事は、お粥やうどんなど消化のよい、繊維質の少ないものを少量食べることが望ましいのですが、下痢・嘔吐の回数が多いときは水分だけとるようにします。ただし、腸管への栄養が低下するため長期間の絶食は避けなければなりません。特に小児では、脱水、低栄養を防ぐため食欲が出始めたら食事をすすめます。
 牛乳は、腸管の水分の分泌を促進し便の量を増加させるため、当分の間避けてください。そのほか避けたほうがよい食べ物は、繊維の多い野菜、果物、脂肪が多いもの、酸味の強いもの、辛いものなどです。
 嘔吐、下痢がひどい場合は、水分や栄養補給のため病院での点滴が必要となります。

■薬物療法
 薬剤療法として、乳酸菌製剤などの整腸剤、吐き気止めを内服します。下痢止めは、原因となる糞便(ふんべん)中の細菌、ウイルス、毒素を体内にとどめてしまうため使用しません。
 細菌性腸炎が疑われるときには抗菌薬を内服しますが、適した薬剤を医師が処方しますので、かってに家にある抗菌薬を服用してはいけません。菌に感受性のない抗菌薬を使うと、薬剤の効きがわるくなるばかりでなく、副作用が出て危険なことがあります。
 病院では、症状を伝え、問診表(なにを食べたか、どこで食べたか、どこへ行ったか、特に海外渡航歴など)を書きます。腹部診察に加え、X線検査、採血などをおこなって総合的に診断します。必要に応じて、糞便の培養検査もおこないますが、結果が出るまでに数日を要します。症状の程度、診断結果に応じて、点滴や内服薬の処方などがおこなわれます。

(執筆・監修:医療法人社団哺育会 桜ヶ丘中央病院 外科部長 榎本 雅之)
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