薬の用量

 薬の作用が量に関係することは、前述のとおりですが、特に注意したいのは、量を多くすればさらによく効くという考えが、時に重大な危険を伴うということです。
 たとえば、ビタミンB1欠乏症(脚気〈かっけ〉)のとき、ビタミンB1薬を1日1mgでは効かず、5mgにしたらすこし効き、10mgにしたら、もっとよく効くということはあります。しかし、多すぎると、同時に利用されるビタミンB2の不足が生じることもあります。
 また、スモンという薬害(スモン)の原因となったキノホルムは、少量を短期間用いると、各種の下痢に有効な使いやすい薬でした。しかし、大量あるいは長期間用いられるようになって、神経症状を起こし、発売禁止になりました。よく使われるアスピリンでさえ、一度に5gものめば、めまいなどひどい副作用が出ます。
 薬の量は、臨床開発において臨床試験(治験)をおこないながら安全性と有効性のバランスで設定されます。また、市販後も医師の経験や臨床研究のなかで使い方が絶えず見直されておおよその使用量が決まっていきます。しかし、肝臓や腎臓のわるい人は薬がなかなか身体から排出されず、身体にある薬が多くなり、中毒を起こすことがあります。薬によって肝臓でこわされて排泄(はいせつ)されるものと腎臓からそのまま排泄されるものがあり、これをもって、それぞれ服用する人の状態に合った薬や量の調整をして使います。
 たとえば強心薬として古くから使用されるジゴキシンは、そのほとんどが腎臓から排泄されます。よって腎臓のわるい人では、薬がなかなか排泄されず身体に蓄積して中毒を起こしやすくなります。ジゴキシンは血中の薬物濃度と効果、中毒の関係が昔から知られています。現在では、患者さんの腎機能に合わせ、使用量を2分の1から4分の1に減らしたり、1~3日おきにのんでもらったりして、ジゴキシンの血中濃度を測りながら用量を調整して使います。
 高齢者では特に身体のさまざまな機能が若い人に比べると低下しているため、薬はなるべく少なめの量から使用したほうが安全なことが多いです。
 また、生まれつきの体質(たとえば肝臓で薬を分解する酵素の活性が少ない人など)とか、食事の内容などの環境条件で、薬の効果が強くなりやすい場合や、一部人種による差も認められます。

(執筆・監修:東京慈恵会医科大学 教授〔臨床薬理学〕 志賀 剛)

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