薬の使いかたと薬を使用するときの注意 家庭の医学

 薬には内服用の錠剤・カプセル・トローチ・粉末剤・水薬・舌下錠(ぜっかじょう)、注射剤、スプレーなどの吸入剤、注腸用、坐薬、外用の軟膏(なんこう)・貼布(ちょうふ)薬・テープ・点眼薬・点鼻薬・すこしずつ吸収される特殊な工夫を施され、体内に埋め込むものなどの別があります。もっとも一般的なものは口から服用する内服(経口)薬です。
 薬の種類によっては、病気や症状に応じて、その効果がもっともよく出るように工夫をすることもあります。たとえば、急な発作に対する治療には、早く効果のあらわれる注射剤が有効です。しかし、慢性の症状に対する効果やくり返し起こる症状の予防には、毎日何回かに分けて服用したり、薬の効果が長続きするしくみをもった内服薬として使われます。
 注射は効きかたが早く、確実であるいっぽう、危険を伴います。よって、医師の指示によって医療者がおこなうものです。ただし、毎日使う糖尿病に対するインスリンなどの皮下注射については、患者さんに練習(トレーニング)をしてもらい、ご自身で注射をする場合もあります。
 多くの薬は、内服によって、目的を達することができます。のんだ薬は、吸収されずにそのまま腸の中ではたらくものもありますが、多くは腸から吸収され、リンパや血液によって、いろいろな組織に運ばれ、そこではたらきます。幼児にはシロップなどで、のみやすくした液状のものをよく使います。また、高齢者には口の中で溶ける口腔(こうくう)内崩壊錠などが使いやすいでしょう。ただ、幼児や高齢者でも飲み込みが悪い方には、坐薬や貼付薬が使われることもあります。
 薬はどのような使いかたをしても、いったん身体に入ると時間とともに、そのまま、あるいは分解(代謝といいますが)されて排出されます。一部の薬では、肝臓で代謝されてから効果のあらわれるもの(活性代謝物といいます)もあります。薬がはたらく時間は、薬の種類や量によって違い、20~30分しか効かないものから、数日あるいは数週~数カ月も続くものがあります。
 消化管内で薬が溶解する時間は剤形(錠剤、カプセル・粉剤・液剤などの薬の形)によって異なりますが、溶解してからも水に溶ける薬と油に溶けやすい薬とでは吸収や排泄(はいせつ)の速さが異なります。
 効果の持続時間は、薬によって異なり、数時間しか持続しない薬は継続して効かせるために1日に3回か4回服用します。しかし、1日に何回も用いなければならないと、忘れやすく外出にも不便なので、最近は1日1回の内服薬や1週1回の内服薬や貼布薬などが用いられるようになりました。このように服用の回数を少なくするためには、吸収の速さを遅らせたり、排泄がおそくなるようにしたりするので、全体の使用量が多くなることがあり、副作用に注意が必要です。胃腸の粘膜に触れると刺激作用のある薬や消化薬は、食後30分以内にのみ、また同時に飲む水を十分に多くします。別に刺激作用のないものは食前や食間(食後2~3時間)に服用してもいいのです。いっぽう、食事後の高血糖を抑える糖尿病治療薬の一部や胃の動きをよくするような食欲増進薬は食前に服用しないと十分な効果が得られません。それぞれ医師の指示に従ってください。
 鎮痛薬や催眠薬のように、1回のめば目的を達するものは、頓服(とんぷく)といって、必要に応じて使います。カプセルに入った刺激の強い薬を、カプセルから出して服用したり、十分な水といっしょにのまなかったりすると、食道や胃に潰瘍をつくることもあります。
 薬の服用方法は、医師に決めてもらい、調剤する薬剤師によく説明してもらって、それぞれの注意事項を守って、着実に服用(服薬)することが大切です。服薬の目的、期待される効果、薬の種類、服薬の量と時刻、食事との関係、そして副作用の出現、あるいは体調不良のとき、どう対応するかについても聞いておくことをおすすめします。
 最近は、病院や調剤薬局でも、薬剤師が薬やその服用方法について説明をしてくれることが多くなりました。使用上の注意などが書かれたパンフレットなども渡してもらえますので、ご自身が服用する薬についてよく理解していただきたいと思います。自分勝手な判断で、のみ忘れたり多くのんだりすると危険です。

(執筆・監修:東京慈恵会医科大学 教授〔臨床薬理学〕 志賀 剛)