催奇形性 家庭の医学

 薬のなかには、妊娠のある時期に服用すると、胎児に奇形が生じるおそれのあるものがあります。催眠薬サリドマイドが、ヨーロッパで発売されたのが1958年で、それ以来、四肢が異常に小さな“あざらし症”と呼ばれる奇形を生じた新生児が生まれ、年々増加の傾向を示し、国際的な重大問題となりましたが、1962年から発売が中止されました。
 これを契機として、薬物による奇形の問題が重視されるようになり、現在では新薬の開発段階でいくつもの安全性に関する試験をおこない、審査・発売認可が非常に厳格になっています。しかし、抗凝固薬であるワルファリン、一部の降圧薬、抗てんかん薬、抗甲状腺薬、抗悪性腫瘍薬、キニーネ、ニコチン、アルコールなどでは奇形の可能性があげられ、警告が発せられています。
 自分で薬を使うのは、その使いかたと、それが安全であることを確かめてからでなければなりません。いっぽう、ご自身の治療として妊娠中も薬を継続しなければならないこともあります。妊娠中も安全性がある程度担保されている薬もありますから、むやみにすべての薬を中止することはいけません。特に妊産婦あるいはその可能性がある方は医師、薬剤師に相談していただくことが必要です。

(執筆・監修:東京慈恵会医科大学 教授〔臨床薬理学〕 志賀 剛)