新薬と患者の人権

 近年、がん細胞の増殖因子や受容体、細胞内の特殊なたんぱくを標的とする薬(分子標的薬)をはじめ、新しい機序をもった肝炎治療薬、抗ウイルス薬、抗リウマチ薬、催眠薬などが次々と開発されています。新薬には、その効果に期待がかかるのですが、対象となる病気や条件が限られ、誰にとってもよい薬とはいえません。また、医師も使用経験が少なく、その効果や副作用についてよくわかっていない面もあります。
 新薬が世に出るためには、実際に人が使っても安全で、有効性があるかどうかを確認する臨床試験が「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP:Good Clinical Practice)」にもとづいて実施されます。この臨床試験を治験といいます。
 治験では、それまでの医師の経験と知識、そして考えかたを十分に被験者に伝え、その了解と同意のもとに、細心の注意をはらいながらためしてみて、その効果の程度や使用する量、副作用の有無を確認します。これらの結果について、国が審査をおこない、認められたものだけが初めて薬として世に出るわけです。
 また治験では、参加される被験者の人権が守られる必要があり、すべての情報を知ったうえで、被験者の意思で、できるだけ安全な方法で、治験に参加する契約をし、途中でも中止を申し出ることができ、どんな場合にも、被験者が不利にならないよう決められています。この過程をインフォームド・コンセントといいます。
 ニュルンベルク綱領に始まる被験者の権利を認める決まりは、世界医師会による「ヘルシンキ宣言」として現在の医療倫理の基本となり、すべての臨床試験・臨床研究はこれにのっとっておこなわれます。

(執筆・監修:東京慈恵会医科大学 教授〔臨床薬理学〕 志賀 剛)