着床前診断
体外受精によってできた受精卵が細胞分裂を始めて5日目の胚盤胞になったときに、その外側にある栄養外胚葉細胞を5~10個ほどを採取して染色体や遺伝子の検査をします。その結果、重篤な病気の可能性のあるものは子宮に戻さず、その可能性のないものだけを子宮に戻す方法です。検査の目的により、染色体の本数を調べる着床前胚染色体異数性検査(PGT-A*)、染色体の構造異常を調べる着床前胚染色体構造異常検査(PGT-SR**)、重篤な遺伝性疾患を対象とした遺伝子の変化を調べる着床前胚遺伝子学的検査(PGT-M***)の3つがあります。
以前は出生前診断といって、妊娠後に羊水(ようすい)や絨毛(じゅうもう)を採取して胎児の検査をおこない、異常であれば
人工妊娠中絶を選択するという方法しかありませんでした。ただ着床前診断にはさまざまな問題があり、日本産科婦人科学会ではPGT-Aが適応となるのは、反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦や、反復する流死産の既往を有する不育症の夫婦の場合、PGT-SRは夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症(もしくは不妊症)の場合、PGT-Mは夫婦の両者またはいずれかが、重篤な遺伝性疾患児が出生する可能性のある遺伝子変異または染色体異常を保因する場合に限るとしています(2022年10月現在)。
問題というのは、ごく微量のDNAからの診断の困難性、精度の問題、(胎児の)安全性の問題などと、倫理的にもいのちの選別につながるといった問題であり、重篤の程度の判断もむずかしい問題です。そのため、それぞれの検査の適応が遵守されるとともに、着床前診断をおこなう施設にはあらかじめ認定を受け学会の定める見解・細則に従うことや、夫婦に対して十分なカウンセリングをおこなうことなどが求められています。
*preimplantation genetic testing for aneuploidy
**preimplantation genetic testing for structural rearrangement
***preimplantation genetic testing for monogenic/single gene defect
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 産婦人科 部長 竹田 善治)