北海道大学医学研究院呼吸器内科学教室の中久保祥氏らは、札幌市で新型コロナウイルス感染症(COVID-19) と診断されて療養判定システムに登録された15万人以上のデータを用い、オミクロン株の亜系統やワクチン接種歴などによる症状の新たな特徴を解析。ワクチン接種による症状の変化に加え、高齢者の症状の特徴と重症化リスクとの関連などをLancet Infect Dis2023年6月30日オンライン版)に報告した。

免疫状態によるCOVID-19の症状の変化

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大に伴い、さまざまな変異株が生まれた。感染による自然免疫を獲得する人が増加する一方でワクチンも普及し、感染者の免疫状態は流行当初とは変化している。こういった状況を踏まえ、中久保氏らは札幌市の大規模データを用い、オミクロン株流行期の亜系統や感染者の免疫状態などによって、COVID-19の症状にどのような変化が生じたのかを検討した。

 研究には、札幌市が運用する「療養判定サイト」「陽性登録センター」と、「感染者等情報把握・管理支援システム」(HER-SYS)、SARS-CoV-2ワクチン接種記録システムの情報を統合したシステムを用いた。

 2022年4月~9月にCOVID-19と診断された15万7,861例を対象に、年齢、性、身長、体重、発症後日数、12の症状の有無、基礎疾患、ワクチン接種歴、過去の感染歴、重症化(酸素投与、人工呼吸器装着)の有無のデータを抽出した。またゲノム解析を行い、オミクロン株のBA.2系統とBA.5系統が流行していた時期をそれぞれ同定して感染者を分類し、抽出したデータとマッチングさせた。さらに、症状発現率と最後のワクチン接種からの経過時間との関連も解析した。

重症化リスクは全身症状例で高く、上気道症状例で低い

 検討の結果、全体の症状としては咳(62.7%)、咽頭痛(60.7%)、鼻汁(44.3%)が多く、BA.2の流行期と比べBA.5の流行期では発熱頭痛、強い疲労感、食事摂取量の減少、関節や筋肉の痛みなどの全身症状が多かった。また、ワクチン3回以上の接種例では、2回以下の接種例に比べて症状有病率が低く、全身症状の頻度も低いものの、鼻汁や咽頭痛などの上気道症状は高頻度に見られた。65歳以上の高齢者では全体としては症状が現れにくいが、全身症状がある例では重症化しやすく、上気道症状がある例では重症化しにくいことも示された(図1)

図1.ワクチン接種歴および高齢者の重症化と症状の関連

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(北海道大学プレスリリースより)

 高齢者では特に全身症状のうち、呼吸困難(調整オッズ比3.01、95%CI:1.84~4.91)、食事摂取量の減少(同2.38、1.54~3.69)、強い疲労感(同1.90、同1.20~3.01)の3症状の組み合わせが重症化のリスク上昇と関連していた。一方、咽頭痛(同0.38、同0.24~0.63)と鼻汁(同0.48、同0.28~0.81)は重症化リスクの低下と関連していた(図2)。

図2. COVID-19の症状と年齢、重症化との関連

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Lancet Infect Dis 2023年6月30日オンライン版を基に編集部作成)

 ワクチン接種が全身症状リスクを低下させることはこれまでにも報告されていたが、上気道症状が現れやすくなるという結果は今回初めて示された。中久保氏らは、高齢者において上気道症状が重症化リスクの低下と関連していることを併せて考えると、ワクチン接種によって上気道の粘膜機能が強化されている可能性を指摘。さらに、今回のデータについては重症化リスクの評価指標として期待できるとし、「今後のワクチン研究や開発における重要な知見となりうる」と展望している。

(服部美咲)