妊産婦の低栄養、貧血、喫煙、その他の健康合併症は、周産期死亡リスクを上昇させる。「妊娠前の女性とそのパートナーに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義されるプレコンセプションケアは、こうした妊娠に関連するさまざまなリスクの低減につながることが期待される。浜松医科大学地域家庭医療学講座特任教授の井上真智子氏らは、静岡県中山間地域の女性住民を対象にプレコンセプションケアに関する知識や実施状況について調査を実施。結果をBMC PregnancyChildbirth2023; 23: 667)に報告した。

諸外国に比べて日本のプレコンセプションケアは不十分

 プレコンセプションケアには、十分な葉酸の摂取、禁煙や禁酒、適正体重の維持、バランスの取れた食事などの母体の健康管理および性感染症の予防、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症風疹の予防などが含まれる。日本では、妊娠前に葉酸を摂取している女性は8%にとどまり、妊娠中の母体の葉酸不足が危険因子となる児の神経管閉鎖障害が増加傾向にある。20~40歳代の女性の約13~21%で低体重が認められ、妊婦の低体重との関連が報告されている低出生体重児の割合は高く、2018年には9.4%に上るなど、諸外国と比べプレコンセプションケアが十分に展開されていない。

 そこで井上氏らは今回、地域在住の生殖年齢女性におけるプレコンセプションケアの実態を調査した。プレコンセプションケアへの個別ニーズや見解などを調べるため、探索的順次デザインに基づく研究法を用いた。まず女性13人(平均年齢30.9歳、既婚者7人)を対象に半構造化インタビューを実施し、その回答を基にプレコンセプションケアの、①認知度、②実践の有無、③情報源、④情報の正確性-を尋ねる質問票を作成。静岡県中山間部在住の20~43歳の女性からランダム抽出した831人に送付し、232人(年齢中央値33歳、範囲28~37歳、既婚者137人、未婚84人、死別・離婚11人、経産婦140人、妊婦5人、未経産婦87人、子供あり139人、なし93人)から有効回答を得た。

未経産婦の大半で低認知度、妊産婦でも葉酸摂取は6割

 検討の結果、プレコンセプションケアの認知度(「詳しく知っている」「ある程度知っている」)は全体で22.4%と低く、特に未経産婦では「詳しくは知らない」「全く知らない」が97.7%を占めた。

 経産婦と妊婦に妊娠前および妊娠を知った後に行ったケアを尋ねたところ、禁煙(96.6%)、禁酒(89.7%)、バランスの良い食事(74.5%)、適正体重の維持(73.8%)などの割合が多かった一方で、葉酸サプリメントの摂取(60.0%)、性感染症検査の受診(45.5%)は低かった。特に、本来推奨されている妊娠数カ月前からの葉酸摂取は3.4%とほとんど行われていなかった()。

図.妊娠前ケアの実行状況

49410_fig01.jpg

 (浜松医科大学リリースより)

 プレコンセプションケアの情報源については、インターネットが69.7%と最も多く、次いで家族・友人が59.3%、本・雑誌が56.5%、産婦人科医が53.8%の順だった。かかりつけ医を挙げたのは10.3%だった。

 以上の結果を踏まえ、井上氏らは「プレコンセプションケアの認知状況は、妊娠経験の有無で大きく異なっており、ケアに関する情報の入手・実践には母親や親しい女性の友人からの助言が有益であることが明らかになった。また、生殖年齢女性の多くはかかりつけ医を持っておらず、『妊娠したかもしれない』と思わないと産婦人科を受診しないため、プレコンセプションケアの助言を受ける時期が遅いという課題が浮き彫りになった。個々のライフステージに応じて、プレコンセプションケアとして取り組んでほしいセルフケアについての助言や医療相談が受けられるサポートの必要性が示された」と結論している。

服部美咲