子宮頸がんは女性の主要な死因の1つで、日本における2019年の新規罹患者数は1万879例、2020年の死亡者数は2,887例に上る。名古屋大学大学院産婦人科学の茂木一将氏らの研究グループは、ナスの"へた"に含まれる天然化合物である9-oxo-(10E, 12E)-octadecadienoic acid(9-oxo-ODAs)が子宮頸がん細胞に対して抗腫瘍効果を示すことを確認。子宮頸がんや子宮頸部異形成といったヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患の有望な治療薬になりうると、Sci Rep2023; 13: 19208)に報告した。

尋常性疣贅にナスの"へた"を貼付する民間療法から着想

 子宮頸がんは子宮頸部の粘膜上皮がHPVに感染し、前がん病変である子宮頸部異形成の状態で数年から数十年を経て浸潤がんとして発症する。子宮頸部異形成や子宮頸がんの発がん、進行のメカニズムにHPVがん蛋白質のE6、E7が関与していることが多数報告されている。しかし、HPVがん蛋白質やそれらの発がんメカニズムを標的とした治療法はいまだ臨床応用されていない。

 日本では、HPV関連疾患である尋常性疣贅に対しナスのへたを擦り付けたり貼付したりする民間療法が行われていた背景がある。過去に研究グループは、ナスのへたのエタノール抽出物が卵巣がん細胞のアポトーシスを誘導することや尖圭コンジローマを抑制することを報告し(J Nat Med 2015; 69: 296-302)、抽出物中の有効成分として9-oxo-ODAsを同定していた。今回、同じくHPV関連疾患であるヒト子宮頸がんに対する9-oxo-ODAsの抗腫瘍効果を検討した。

抽出成分9-oxo-ODAsが子宮頸がん関連蛋白の発現を抑制

 まず、ヒト子宮頸がん細胞株(HeLa、SiHa)を9-oxo-ODAsで処理し、細胞増殖やアポトーシス誘導への影響を解析した。すると、ヒト子宮頸がん細胞の増殖が濃度依存的に抑制され、アポトーシス細胞数を増加させることが分かった。

 そこで9-oxo-ODAs処理後の子宮頸がん細胞株に対して網羅的にRNA発現や蛋白質を解析した結果、細胞周期の経路やアポトーシスに関与するp53経路が変化し、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)1蛋白質発現が減少していた。また9-oxo-ODAs 投与後の子宮頸がん細胞株では、HPV由来のRNAと蛋白質の発現レベルが低下することも明らかになった。

 マウスモデルを用いた実験においては、9-oxo-ODAsの投与により、マウスに移植した子宮頸がん細胞の転移形成や増殖が抑制されることを確認した。これらの結果から、9-oxo-ODAsはCDK1やHPVがん蛋白質の発現を抑制することでHPV陽性ヒト子宮頸がん細胞の細胞周期停止、アポトーシスを誘導し、抗腫瘍効果を示すと考えらた。

 以上から、茂木氏らは「9-oxo-ODAsがHPV関連疾患の有望な治療薬となりうることが示された」と結論。これまでの研究結果から、9-oxo-ODAsは生体への毒性を抑えたまま抗腫瘍効果を発揮する可能性が見いだされており、「作用機序をより詳細に検討し臨床治療への応用を目指したい」と展望している。

(編集部)