植え込み型左室補助人工心臓(LVAD)を装着した重症心不全患者に対し、ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬(VKA)による抗血栓療法は、VKA+アスピリン併用と比べ血栓塞栓症のリスク増加は認められず、出血イベントも減少することが分かった。米・Brigham and Women's HospitalのMandeep R. Mehra氏らが、国際多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験ARIES-HM3の結果をJAMA2023: e2323204)に報告した。

VKA+プラセボまたはアスピリンで比較

 LVAD装着は、重症心不全患者におけるQOLの改善および生存期間延伸に寄与するとされるが、主な合併症として非外科的出血イベントが挙げられる。そのためLVAD装着例には、VKAとアスピリンの併用が義務付けられているが、有効性および安全性に関するエビデンスは確立していない。そこでMehra氏らは、アスピリン非併用による有効性および安全性を検討する非劣性試験ARIES-HM3を実施した。

 対象は2020年7月〜22年9月に米国、カナダ、欧州(チェコ、オーストリア、イタリア、フランス、英国)、カザフスタン、オーストラリアの計9カ国・51施設で登録された全置換型磁気浮上LVADを装着した重症心不全患者628例。VKA+プラセボを投与するプラセボ群(314例)とVKA+アスピリン(100mg/日)を投与するアスピリン群(314例)にランダムに割り付けた。登録から14日以内に投与中止を要する外科的合併症またはイベントが発生した例は除外した。

 主要評価項目は、12カ月時の非外科的主要血液適合性関連有害イベント(脳卒中、ポンプ血栓症、非外科的大出血、末梢動脈血栓塞栓症)のない無イベント生存率とした(アスピリン群に対する非劣性マージン-10%)。

 主要評価の対象とした589例(プラセボ群296例、アスピリン群293例)の主な背景は、平均年齢が順に58歳、57歳、男性が224例(76%)、232例(79%)、白人が179例(60.5%)、181例(61.8%)、アジア人が13例(4.4%)、9例(3.1%)。既往歴は、両群で心房細動(プラセボ群46.3%、アスピリン群41.6%)と糖尿病(それぞれ45.3%、36.2%)が多かった。血行動態は、左室駆出率(LVEF)の平均がそれぞれ16%、17%、動脈圧は平均収縮期が両群とも106mmHg、拡張期はプラセボ群が69mmHg、アスピリン群が68mmHg。ベースライン時のアスピリン投与例数はそれぞれ40例、47例だった。

プラセボ群の無イベント生存率は約6%高い

 解析の結果、12カ月時の無イベント生存率はプラセボ群が74.2%、アスピリン群が68.1%とプラセボ群で有意に高く、アスピリン群に対する非劣性が確認された(群間差6.1%、片側97.5%CI下限値−1.6%、P<0.001)。

 群間差が生じた背景として、プラセボ群における出血イベントの減少(プラセボ群22.5%、アスピリン群28.2%)が考えられ、非外科的出血イベントの発生頻度を見てもプラセボ群が25.9/100人・年、アスピリン群が39.5/100人・年と、アスピリンの非併用は非外科的出血イベントの減少と有意に関連していた(相対リスク0.66、95%CI 0.51〜0.85、P=0.002)。これらの減少は消化管出血を含む中等および重症イベントの双方で認められた(同0.61、0.42〜0.87、P=0.007)。

 以上の結果から、Mehra氏らは「今回のARIES-HM3試験により、全置換型磁気浮上LVAD装着の重症心不全患者において、VKAを含む抗血栓薬療法からアスピリンを除外しても脳卒中またはその他の血栓塞栓性イベントの増加は認められず、出血イベントも減少することが分かった」と結論。ただし、LVAD装着以前からのアスピリン投与例における同薬の除外や、他の人工心臓装置装着例での検討も必要との見解を示している。

編集部