肥満はがんの発症リスクとなるが、患者に説明しても聞き入れてくれない場合がある。千船病院(大阪市)肥満・糖尿病内分泌センター長/糖尿病・減量外科部長の北浜誠一氏は、第44回日本肥満学会/第41回日本肥満症治療学会(2023年11月25~26日)で肥満とがんの関連について発表し、「患者が興味を持つ瞬間(Teachable Moment)を活用し、減量治療およびがん治療について多職種から成る減量チームとがん治療を担当するチームのコラボレーションが重要になる」と述べた。
がんリスクは若年肥満例で年々増加傾向
肥満に伴い発がんリスクが上昇する。米国ではBMI 25以上の過体重に起因するがん罹患率は30歳以上の男性で4.7%、女性で9.6%と推計されており(JAMA Oncology 2019; 5: 384-392)、日本ではそれぞれ0.8%、1.6%とされている(Ann Oncol 2012; 23: 1362-1369)。
また近年、米国では6つの肥満関連がん(多発性骨髄腫、大腸がん、子宮内膜がん、胆囊がん、腎がん、膵がん)罹患率が若年成人(25~49歳)で著明に上昇し、若年世代ほど急激に上昇している。若年層の肥満人口が増加し続けることで、上記以外のがん種への拡大が続くと想定されている(Lancet Public health 2019; 4: e137-147)。
肥満による発がんのメカニズムとしては、高インスリン血症や血中インスリン様成長因子(IGF)-1濃度の上昇、細胞増殖の促進とアポトーシスの抑制、脂肪組織からのエストロゲン産生の増加や、胃食道逆流などの慢性炎症に伴うもの、低アディポネクチン血症や高レプチン血症の関与などさまざまな要因が推測されている。
そのため、肥満者には定期的ながん検診が推奨されているものの、課題がある。肥満女性は閉経後の乳がん罹患率および死亡率が高い。しかし体重が増加するほどマンモグラフィによる強い痛みを訴え、マンモグラフィ受診率が低くなる傾向にある(J Gen Intern Med 2019; 24: 665-677)。また子宮頸がん検診に関する研究でも、体重増加と検診受診の間に負の相関が認められている(J Womens Health 2011; 20: 421-428)。
患者のTeachable Momentを見いだし、肥満とがんについての教育を
「肥満はがんのリスクになる」ことを患者に説明しても、なかなか聞き入れてもらえない場合がある。北浜氏は「Teachable momentを逃さずに話すことが大切だ」と述べ、「肥満者におけるがんは、治療して一件落着とはならない。がん治療後にQOLを低下させる合併症リスクが高まるため、同時に肥満治療を始める必要がある」と強調した。
なお、肥満の是正によりがんリスクが低下するという報告は複数あり(Int J Obes Relat Metab Disord 2003; 27: 1447-1452、J Clin Oncol 2017; 35: 1189-1193)、減量・代謝改善手術によるがんリスクの低減も報告されている(Surg Obes Relat Dis 2023; 19: 328-334、Obes Surg 2020; 30: 1265-1272)。
米国肥満代謝外科学会(ASMBS)は、がんと肥満に関する提言として、①減量・代謝改善手術を含むさまざまな方法で減量できれば肥満によるがんリスクを低減できる、②肥満者はがん検診を受けにくい可能性がある、③肥満症治療プログラムで肥満者にがんリスクの高さを啓発する、④がんの既往歴があっても減量・代謝改善手術は必ずしも禁忌ではない、⑤術前にさまざまな術式について患者とよく話し合う―ことなどを含む7つを示している。
同氏は「肥満症と判定されたタイミングを逃さずにがんの教育を行うことで、患者は検診や手術を受け入れやすくなる。同様に、がんになったときやがん治療を行うタイミングで肥満症に関する教育を行っておけば、患者は検診や手術を受け入れやすくなる」と説明した。
これからの肥満症治療は腫瘍外科医チームともコラボレーションが重要
北浜氏は「肥満症例に治療開始まで時間的余裕があるがんが見つかった際は、がん手術の前に減量・代謝改善手術(ブリッジング減量・代謝改善手術)を考慮する機会が増える」と予測する。例えば、人工関節置換術での再入院や再手術リスクを低減するため、また臓器移植レシピエント例では減量・代謝改善手術により減量できたことで臓器移植リストに加えられたケースもあり、減量手術の優先が望ましいという。
ちなみに減量・代謝改善手術を理由に仕事を休めない患者もいるため、1日でも早い退院を目指し、術後の呼吸・疼痛管理、早期離床、呼吸リハビリテーションなどを行う術後早期回復プログラム(ERAS)もある。なお千船病院での腹腔鏡下スリーブ状胃切除術後の平均在院日数は2.3日と短い。
同氏は「これまで肥満外科は糖尿病内分泌科、呼吸器内科や消化器内科など内科系医師とタッグを組み、多職種から成る高度肥満症チームを形成してきた。しかし今後は、がん種と病期、再発リスク、余命を考慮し、一般・消化器外科や婦人科、泌尿器科、整形外科などの腫瘍外科医チームとのコラボレーションも重要になってくる」とまとめた。
なお、同院では今年(2024年)4月から糖尿病・減量外科に国際フェローを受け入れる認可がおり、既に3人の参画が予定されている。同氏は「減量・代謝改善手術や全身管理を学びたい先生がいれば、ぜひ連絡してほしい」と呼びかけた。
(渡邊由貴)