在宅医療では、病院医療に比べ医療資源が少ない中で診療を行わねばならず、問診や身体所見だけで治療方針を決定するのは難しい。そこで活用したいのがポケットエコーだ。ポケットエコーは、関心領域を観察し診断につなげるだけでなく、穿刺などの手技の安全性を高めることにも役立つ。しかし使用にはこつが必要で、ハードルが高いと感じる医師が多い点は否めない。そこで、北海道家庭医療学センター市立稚内病院総合診療医長の植村和平氏は、日本プライマリ・ケア連合会主催の第19回若手医師のための家庭医療学冬期セミナー(2月10~11日)の「在宅POCUSハンズオンセミナー」で、エコー手技の上達には「とにかく超音波プローブを当てて観察し、各部位の解剖学的構造の理解に努めることが大事」と述べた。

発熱時の往診にPOCUSを活用

 在宅医療は、定期訪問と緊急時の往診に分けられる。定期訪問では慢性疾患の指導・管理や経過観察を行うが、トラブルや異常など緊急時には往診する必要がある。植村氏は、往診の中でもニーズが高い①発熱へのアプローチ、②運動器エコーとエコーガイド下穿刺および注射、③ボリューム管理―について解説した。

写真1 植村氏によるハンズオンセミナーの様子

52536_photo02.jpg

 発熱は、往診理由の6割を占める。基本的な症状でありながら診断が難しいテーマで、問診と身体所見のみで「とりあえず抗菌薬を出して様子を見る」といった治療方針になりかねない。同氏は「救急医療では原因不明の発熱例は造影CTなどで精査するのに対し、在宅医療では画像所見なしにいきなり抗菌薬を処方することがある。しかし、その原因はさまざま。よくある疾患だけでもポケットエコーを用いてしっかり評価できるようにしておきたい」と指摘する。

 同氏は「よくある疾患」として、誤嚥性肺炎、尿路感染、皮膚軟部組織感染症、胆道系疾患を挙げた。ここでは、発熱患者の多くを占めポケットエコーによる診断が可能な尿路感染症について紹介する。

膀胱の描出で尿路感染症が分かる

 ポケットエコーを用いて尿路感染症を診断する際は、まず膀胱全体を描出する。こつは衣服を恥骨ぎりぎりまで下げてもらい、恥骨の上にプローブを当てることだという。特に女性の場合、膀胱と腹水や卵巣を間違いやすいため注意を要する。プローブを前後左右に振って全体を描出し、膀胱であることの確認が第一歩となる。

写真2 膀胱を描出しモニターで確認する参加者

52536_photo01.jpg

(写真1、2とも編集部撮影)

 恥骨結合の周辺をカラードプラで観察すると、尿管膀胱移行部から間欠的に尿が生成される尿のジェット流が観察できる。この際に結石が見つかれば複雑性尿路感染症の可能性があるため注意が必要である。尿ジェット流が確認されない場合は、脱水症状を起こしている可能性もある。

 また、水腎症の診断には動脈や静脈などの脈管と、腎盂の尿管を見分ける必要がある。水腎症であれば中央複合エコー(CEC)に観察される無エコーの離開部に、血流信号の亢進は見られない。

 腎盂腎炎の診断の際にも、ポケットエコーが役立つ。医学部の実習で学ぶ身体診察の一つである双手診は、実臨床での有用性は低いとされるが、エコーガイド下で行えば確実に腎臓を触知しながら検査することができる。腎盂腎炎の場合、腎臓をピンポイントで押されると強い痛みを感じる。確定診断は発熱、頻尿、膀胱刺激症状、尿検査などの所見と組み合わせて行うことが大切だという。

 エコーは実践的な手技で、教科書では学ぶのが難しい領域である。植村氏は、プローブの走査方法や範囲、配置位置に関する質問が多く寄せられるという。エコー手技上達のこつについて、同氏は「エコーの画像を残すこと、指導者から学ぶなどさまざまなポイントがあるが、とにかくプローブを当て観察してみることが大事。それによって解剖学的構造や疾患への理解が深まり、こつが分かるようになれば診断することが楽しくなる」とまとめた。

栗原裕美