高齢ドライバーは、精神運動機能を低下させ運転に悪影響を及ぼしうる(potentially driver-impairing;PDI)薬剤を使用していることが多い。米・Brown University School of Public HealthのAndrew R. Zullo氏らは、延べ15万件超の自動車衝突事故に関与した高齢ドライバー約12万例のメディケア請求データと警察の事故報告データを用い、事故前後におけるPDI薬剤(ベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、オピオイド系鎮痛薬)の使用状況を検討。その結果、事故を起こした高齢者の約80%は、これらの薬剤の使用を事故後も継続していたJAMA Netw Open2024; 7: e2438338)に発表した。(関連記事「高齢運転者の事故リスクは若年者より低い」)

運転に影響する薬剤が事故後に微増

 対象は、2007~17年に米・ニュージャージー州の警察に報告された延べ15万4,096件の自動車衝突事故に関与した66歳以上の高齢ドライバー12万1,846例(事故時の平均年齢75.2歳、女性51.6%)。ドライバーに過失(責任)があるとされた事故が57.8%を占めた。

 主要評価項目は、事故前後それぞれ120日間におけるベンゾジアゼピン系薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、オピオイド系鎮痛薬、その他の薬剤の使用パターンとした。

 事故件数ベースで見ると、ドライバーがなんらかの運転に悪影響を与えうる薬剤を事故前に使用していた割合は80.0%、事故後に使用していた割合は81.0%、事故前後で継続的に使用していた割合は77.6%だった。薬剤別の使用割合は、ベンゾジアゼピン系薬(事故前8.1%、事故後8.8%)、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(同5.9%、6.0%)、オピオイド系鎮痛薬(同15.4%、17.5%)のいずれも事故後にやや増加していた。

 事故全体の1.4%でベンゾジアゼピン系薬、1.2%で非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、6.3%でオピオイド系鎮痛薬の使用をドライバーが事故後に中止していた。一方、これらの使用を事故後に開始していた割合はそれぞれ2.1%、1.2%、8.4%に上った。

事故後使用者の20~48%が事故後に新規開始

 人数ベースで見ると、事故前の使用者が事故後に使用を中止した割合は、ベンゾジアゼピン系薬で17.2%、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬で19.6%、オピオイド系鎮痛薬で41.2%だった。また、事故後の使用者のうち事故後に新規に使用を開始した者の割合は、ベンゾジアゼピン系薬で23.5%、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬で20.5%、オピオイド系鎮痛薬で48.1%だった。

 以上の結果から、Zullo氏らは「自動車衝突事故を起こした高齢者の大部分が、運転に悪影響を及ぼしうる薬剤の使用を事故後も中止していない実態が明らかになった」と結論。「患者が事故関連の問題で受診するか診察時に事故について申告しなければ、臨床医は事故の事実を把握できないため、臨床医の多くが患者の自動車衝突事故を認識していない可能性がある。また、患者も薬剤による事故のリスクを認識していない、もしくは認識していても薬剤の有用性の自覚や中止に対する不安から使用継続を希望する可能性がある」と説明し、「今後は、診察時の事故報告の徹底や、薬剤による事故リスクと処方中止によるベネフィットに関する医療従事者と患者の意識向上に焦点を当てた、処方中止への介入が必要になるだろう」と付言している。

(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)