インタビュー

東京五輪開催に懸念
~感染症学会前理事長に聞く~

 東京オリンピック・パラリンピック開催が迫ってきた。9都道府県に発令した緊急事態宣言は6月20日が期限だ。その時点で、新型コロナウイルスの感染が収束しているのだろうか。予定通り開催できるのか、さまざまな問題を抱えても中止すべきか。日本感染症学会前理事長で政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の委員でもある舘田一博・東邦大学教授(感染症)は、安全・安心な東京五輪のためのリスク評価と対策に強い懸念を示す。

PCR検査を終えた入国者の検疫待機スペース=千葉・成田空港

 ◇あと2カ月で対策?

 「開催まで2カ月を切った段階では、想定できる感染状況ごとにシナリオを作成し、開催時のリスクを評価した上で観客の有無などの開催形態を専門家として考え、提示しておくことが必要なのではないか」。舘田教授はこう指摘する。

 新型コロナウイルスの感染は、東京などへの緊急事態宣言の発令などで、一定程度の抑制傾向に入っているのは事実だ。しかし、舘田教授は、宣言の長期化によって人の流れが再び増加し、感染者数が下げ止まってしまうことを危惧している。

 「昨年末からの第2回緊急事態宣言でも、解除直前には感染者数は微増に転じている。同様に『解除が近い』『五輪が開かれる』という情報自体が人々の警戒心を緩めさせ、五輪開催前後に再度感染者が増加する『リバウンド』が起きることもあり得る」。こう話す舘田教授は、このような事態にどう備えるべきなのか、幾つかのシナリオに沿った対応策を、専門家集団である分科会として示す必要性を考えている。

 しかし、今からシナリオを作成し、有効な手段を講じることは可能なのだろうか? ワクチン接種もそうだが、医師や看護師だけでなく、スタッフの人員確保は簡単ではない。

事前キャンプ地のホテルに到着し、笑顔を見せるオーストラリアの女子ソフトボール選手団=6月1日、群馬県太田市

 ◇リスク高める「観客受け入れ」

 五輪のような大規模イベントは、各地から多くの人が集まる会場にさまざまな感染症が持ち込まれ、拡散する可能性がある。感染症学会などは新型コロナウイルスの流行以前から、五輪開催時に各国から選手や観客などが集まる際に、この現象が起きることを恐れ、はしかや風疹、細菌性髄膜炎などに対する警戒を呼び掛ける運動に取り組んでいた。

 そうした流れを踏まえれば、コロナ禍では当然、「五輪中止」を訴えても、不思議はないと思われる。

 たとえスタジアムを「原則無観客」としても、選手や五輪関係者が数千人単位で入国する。競技場や選手村などでは、運営や警備、清掃などに関わる日本人スタッフのほとんどが毎日、公共交通機関で自宅から通って来る。新型コロナウイルスに感染して選手村でクラスターが発生したり、日本人スタッフが家庭内感染を起こしたりする危険性は否定できない。

 「観客を競技場に受け入れれば、人の動きが増えて感染拡大の危険性を高める」。舘田教授の指摘は当然だ。

 ◇後悔、先に立たず

 新型コロナ対策の要と期待されるワクチンだが、開催時の効果は限定的だ。医療関係者や重症化リスクの高い高齢者への接種は一定の比率まで進んでいるが、社会的に活動性の高い20代から50代への接種がどうなるかは現時点で分からない。

 「今となっては繰り言かもしれないが、昨年、1年間の延期を決めた時にもう1年延期していればよかった。そうすればワクチン接種も進んでいるので、ある程度は安心して五輪も開催できた。延期期間を1年とした判断の是非も、政策決定の過程まで含めて解析し、教訓とすべきだ」。教授の言葉が繰り言にならないことを切に祈る。(了)

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