黒色腫は全身に生じる可能性があるが、白人では皮膚の黒色腫(CM)が多く、東アジア人やヒスパニック系、アフリカ人では四肢末端部(末端黒子型、AM)や粘膜に生じる黒色腫(MM)が多いなど、人種によって臨床像が異なる。最近の研究で非白人に比べ白人の黒色腫は免疫チェックポイント阻害薬の効果が低い傾向にあることが報告され、十分な効果を得るには人種ごとの遺伝的な特徴を明らかにする必要性が指摘されている。札幌医科大学皮膚科学准教授の肥田時征氏らは日本人黒色腫患者の遺伝子プロファイリングを行い、白人と異なる遺伝的特徴を明らかにするとともに、対象の半数以上が治療薬に反応する遺伝子変異を有していたとの結果をCancer Med (2024; 13: e70360)に報告した(関連記事「アジア初!皮膚がんの疫学的解析」)。
104例の原発巣/転移巣の検体を採取し、遺伝子異常を解析
対象となった日本人黒色腫患者104例は、2020〜23年に札幌医科大学病院および信州大学病院で登録した。内訳はAM 52例(男性28例/女性24例、平均年齢73歳)、CM 37例(同22例/15例、65歳)、MM 15例(同2例/13例、72歳)である。全例から腫瘍組織を採取し、原発病変のみ73例、転移病変のみ10例、原発と転移病変両方の21例の検体を得た。肥田氏らが開発した黒色腫に重要な95の遺伝子を低コストで解析可能なカスタムシークェンスパネルを用いて遺伝子異常について検索した。
白人に比べ、日本人の黒色腫は遺伝子変異が多様で変異量が少ない
その結果、がん化に直接関わるドライバー遺伝子変異が対象の94%で検出された。タイプ別に見ると、CMではBRAF変異が症例の76%と圧倒的に多く、AMではKIT変異(19%)とNRAS変異(17%)が、MMではNRAS変異(20%)が多かった。CMで多勢を占めたBRAF変異は、AMでは7.7%にとどまり、MMでは検出されなかった。
全体における腫瘍遺伝子変異量(TMB)の中央値は4.6mut/Mbで、タイプ間に有意差は見られなかった。この結果は、欧米諸国で行われた白人患者を対象とした先行研究とは大きく異なる。既報ではCMのTMBはAAやMMより多いことが示され、CMがAMおよびMMの18.6倍(49.17mut/Mb vs. 2.64mut/Mb)とした報告もあった(Nature 2017; 545: 175-180)。
原発巣と転移巣の両方から検体を採取できた21例では、過半数の11例で原発病変と異なる遺伝子変異が転移病変に認められた。肥田氏らによると、こうした遺伝子異常の不均一性が黒色腫の治療を複雑にしているという。
さらにがん治療薬のデータベースであるOncoKBを基に、検出された遺伝子変異による治療可能性を検討。同データベースでエビデンスレベル1(FDA承認治療薬における効果予測が可能な遺伝子変異)であるBRAFV600E/K変異を有することから、BRAF阻害薬およびMEK阻害薬による治療対象となる症例は31例(CM 27例、AM 4例)認められた。また、58例(CM 7例、AM 40例、MM 11例)と半数を上回る症例で、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬による効果が期待される遺伝子変異を検出した。
日本人黒色腫における遺伝子変異が白人とは異なる特徴を持つことを明らかにした今回の結果から、同氏らは「日本人を含む東アジア人の黒色腫治療においては、遺伝的特徴を踏まえた治療戦略が重要である。特にドライバー遺伝子変異に見られた多様性と原発/転移巣間の遺伝子異常の不均一性は、個別化治療によるアプローチの必要性を強く示すものだ」と結論している。
(編集部)