医師不足は英国における懸念材料だが、状況は悪化の一途をたどっているようだ。英国保健サービス(NHS)の最近の調査によると、ジュニアドクターの10人に4人ができるだけ早くNHSから離れたいという意向を持っている(When A Doctor Leaves: Tackling The Cost Of Attrition In The UK's Health Services)。慢性的な医師不足が近い将来に解消される見通しが立たない現在、将来医師になる医学生の退学を減らすことは重要課題である。英・University College London Medical SchoolのAsta Medisauskaite氏らは、英国の9地域のメディカルスクールに在籍する学生を対象としたWeb調査を実施。現在の精神状態(メンタルヘルス)に関する回答を解析した結果、「英国の医学生の相当数がメンタルヘルス症状を有しており、約2割が退学を考えている」とBMJ Open(2025; 15: e094058)に報告した。
情緒的消耗感は全員に存在
Medisauskaite氏らは2020年11月~21年2月に、全英のメディカルスクールに在籍する学生1,113人を対象にWeb調査を実施。792人(71.16%)から回答を得た。その3カ月後にフォローアップとして再度、調査を依頼したところ、407人(51.39%)から回答を得た。最終回答者の平均年齢は21.49歳、女性が305人(74.9%)、白人が263人(64.6%)だった。
さまざまなメンタルヘルス症状の有無とその程度について妥当性の証明されたスケールを用いて尋ねたところ、情緒的消耗感(emotional exhaustion)はほぼ全員があると回答。その他、「ある」と回答したのは、不安/抑うつ〔重度/中等度、154人(37.9%)〕、不眠〔重度~軽度、223人(54.1%)〕、身体化(somatization)〔極強度~軽度、336人(82.5%)〕、危険な飲酒(hazardous drinking)〔245人(60.2%)〕、拒食傾向(anorexia tendency)〔182人(44.7%)〕、強迫性障害〔211人(51.8%)〕、パラノイア〔79人(19.4%)〕、双極性障害〔12人(2.9%)〕。
ほとんどの症状が退学意思と強く関連
フォローアップ調査時、79人(19.4%)がメディカルスクールの退学を考えていると答えた。退学意思と各症状との関連を解析したところ、情緒的消耗感〔調整後の回帰係数(B)0.94〕、重度~中等度の不安/抑うつ(同 1.12)、不眠(同0.69)、身体化(同0.77)、強迫性障害(同0.61)、パラノイアの各症状と強い退学意思との有意な関連が認められた(全てP<0.0001)。一方、危険な飲酒と双極性障害の症状に退学意思との関連はなかった(P>0.05)。〔以上のP値は、Bonferroni法による多重比較の補正を行った〕。
過酷な競争環境の改善が求められる
以上の結果を踏まえ、Medisauskaite氏らは「メンタルヘルスが医学生の退学意思に影響を及ぼす重要な因子であることが示唆された。メディカルスクールという過酷で競争的な環境では、医学生のメンタルヘルス症状を捉えるのは容易でないが、学生のwell-beingを考え、学校側は学生に対する教育と学習環境の改善に取り組み、学生が相談しやすい環境を整えるべきだ」と考察している。
研究の強みとして同氏らは、精緻なデータ収集アプローチと英国全土のメディカルスクールの学生を対象としたことを挙げる一方、学生の自己報告によるデータという限界があると付言している。
(医学ライター・木本 治)