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胃がんの死亡者、減少傾向
内視鏡検査が貢献

 長年、がんの中で死因、患者数ともに第1位だったのが胃がんだ。最近も患者数は相変わらず上位を占め続けているが、死亡者数は減少傾向にある。背景には治療法の進歩に加え、職場や地域でのがん検診の受診率が上昇したことや健診法の進歩で、治癒率が高い早期段階での発見が増えたからといわれている。最近、注目されているのが胃の内視鏡検査だ。

胃がん検診にはバリウムを使ったエックス線画像検査と内視鏡検査がある

胃がん検診にはバリウムを使ったエックス線画像検査と内視鏡検査がある

 ◇エックス線検査に追加

 厚生労働省は市区町村によるがん検診に関し2016年2月に指針を改正し、これまでのバリウムによるエックス線画像検査だけでなく、胃内視鏡検査=用語説明参照=を加えることを認めた。実施には検査の運営に関わる委員会や診断結果判定のための委員会などを立ち上げる必要はあるが、診断精度の高さを評価して導入する市区町村は少なくない。

 一部の政令指定都市よりも人口が多い東京都世田谷区も胃内視鏡検査を導入した自治体の一つだ。15年の厚労省の中間報告を受け、15年中に内視鏡検診に関するあり方検討会を、17年には準備委員会を設置。区役所や医師会に区外の専門医を加えた議論を重ね、国の示すマニュアルを基に検診時のマニュアルなどを策定した上で、17年10月から導入した。

 現在、エックス線検診は専用車2台によって区内を巡回して年間300カ所で実施している。これに対して胃内視鏡検査による検診は、多くの個人クリニックを含む80以上の医療機関が、日常診療の中で実施している。ただ、二つの方式では、検診を受けられる年齢や受診間隔、自己負担額などが異なる。

 ◇スムーズに導入

 検診業務を担当する世田谷保健所健康推進課の鵜飼健行課長は「機材の洗浄法や検査の技法が医療機関間に違いがあったり、検診結果を受けての精密検査や一般の診療との相違をどう位置付けるかで議論があったりした。議論を重ねてきたこともあって、対応してくれた医療機関も多く、比較的スムーズに導入できた」と話す。

鳥居明医師

鳥居明医師

 その一方で、「対策型がん検診」という性格からポリープなどの病変を発見しても、マジックハンドのような生検鉗子(かんし)で病変の一部を採取して検査に回す場合は、公的な検診から保険診療に切り替える必要があるため、がん検診の自己負担以外に費用が生じてしまう。鵜飼課長は「検診を受ける前に各医療機関で、必要な事項を十分に説明している。また、検診精度を高めるために、複数の医師が画像をチェックする体制なども整備した」と、導入に向けて力を入れた点を説明する。

 ◇検査精度が向上

 「胃壁に生じたポリープなどを、エックス線画像に生じる影から異常を読み取るこれまでの検診に比べ、内視鏡検査では直接胃壁の画像から、粘膜の変色やポリープの有無などを確認できる。また、内視鏡を操作することでがんを疑った部分を繰り返し診ることも可能だ。検査の精度は大きく向上すると考えられる」

 内視鏡検診に積極的に取り組んできた世田谷区の鳥居内科クリニックの鳥居明院長(消化器内科)は、内視鏡検診のメリットをこう説明する。その上で、内視鏡による検診が始まってまだ時間がたっていないため、検診精度の向上をデータ化はできていないが、より早期のステージ=用語説明参照=で胃がんを発見する確率が高まり、結果的に胃がんによる死亡率を低下させることが期待できる、と強調する。

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