医学部・学会情報

三角頭蓋を伴う発達障害の新規責任遺伝子を発見
~発達障害発症メカニズムの解明につながる新たな知見~名古屋市立大学

【研究成果の概要】
名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経科学研究所の山川和弘教授(神経発達症遺伝学分野)らの研究グループは、横浜市立大学の松本直通教授(遺伝学)、沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの下地武義医師(脳神経外科)、理化学研究所脳神経科学研究センターの吉川武男チームリーダー(分子精神遺伝研究チーム)、名古屋大学の尾崎紀夫教授(精神医学・親と子どもの心療学分野)東京大学の狩野方伸教授(神経生理学分野)、福岡大学てんかん分子病態研究所の広瀬伸一教授(小児科)、湊病院北東北てんかんセンターの兼子直医師(センター長)、静岡てんかん・神経医療センターの井上有史医師らのグループと共同で、発達障害患者のゲノムDNA解析、疾患モデルマウス解析によって、多くの新規発達障害責任遺伝子の変異を同定し、さらにモデルマウスが発達障害およびてんかんに関連する症状を再現することを発見しました。

PJA1遺伝子の同一ヘミ接合性ミスセンス変異が三角頭蓋を伴った発達障害患者から同定された

PJA1遺伝子の同一ヘミ接合性ミスセンス変異が三角頭蓋を伴った発達障害患者から同定された

山川教授らの研究グループは、発達障害患者95人(51例の三角頭蓋合併例と40例のてんかん合併例を含む)の全エクソーム解析により、62個の新生変異を57遺伝子から同定しました。これらの新生変異のうち、分断変異が17遺伝子から同定され、そのうち9遺伝子(CYP1A1, C14orf119, FLI1, CYB5R4, SEL1L2, RAB11FIP2, ZMYND8, ZNF143 および MSX2)は、これまでに発達障害の原因として報告のない新規の遺伝子でした。遺伝性変異として、55個の遺伝子からヘミ接合性変異、16遺伝子からホモ接合性変異8、15遺伝子からコンパウンドヘテロ接合性変異9を同定しました。これらの変異は、健常対照群575人には見られない非常に稀な変異でした。注目すべきことに、タンパク質の分解に関わるE3ユビキチンリガーゼをコードするPJA1遺伝子の同一ヘミ接合性ミスセンス変異(p.R376C)が5人の患者で観察されたことから、さらなる発達障害患者463人のターゲットシークエンス解析を施行した結果、合計7人の発達障害患者から変異を同定し、その内5人が三角頭蓋を、1人が部分てんかんを伴っていました(図1)

発達障害患者で同定されたPJA1変異に相当する変異を導入したノックインマウスではPJA1タンパク質の発現量が減少する

発達障害患者で同定されたPJA1変異に相当する変異を導入したノックインマウスではPJA1タンパク質の発現量が減少する

次に、ヒトPJA1変異に相当する変異(p.R365C)を導入したノックインマウス(Pja1-KI)およびPja1遺伝子を喪失したノックアウトマウス(Pja1-KO)を作製し、PJA1の機能異常がどのように三角頭蓋を伴った発達障害に関連するのか検討しました。これらマウスの脳内でのPJA1タンパク質の発現量をウエスタンブロット解析で確認したところ、Pja1-KIマウスでは40%程度減少し(図2左)、Pja1-KOマウスでは完全に消失していました(図2右)。このことは変異がPJA1タンパク質の機能喪失を引き起こすことを示唆しています

生後6日目のPja1-KOマウスは超音波発声障害を示す

生後6日目のPja1-KOマウスは超音波発声障害を示す


PJA1の変異が何らかの機能喪失を引き起こすことが想定されたことからPja1-KOマウスの行動試験を実施した結果、生後6日目の超音波発声試験10で発声の強さ(amplitude)および周波数変調(frequency modulation)が野生型マウスと比較して統計的に有意に減少しており、また、発声持続時間が短い傾向を示しました(図3)。

これらの結果は、Pja1-KOマウスがコミュニケーション障害やPJA1変異を持つ患者全員で認められる言語獲得の遅れを再現するものだと考えられます。さらに、Pja1-KOマウスが、社会的新奇性に対する嗜好性の不全をスリーチャンバーテストと呼ばれる相手マウスへの接触回数を測定する方法により、又、けいれん誘発性の亢進をてんかん誘発剤であるペンチレンテトラゾールへの感受性を測定すること(図4)などにより、発達障害およびてんかんに関連する症状の一部を再現することを発見しました。

Pja1-KOマウスでのけいれん誘発剤に対する感受性の上昇

Pja1-KOマウスでのけいれん誘発剤に対する感受性の上昇


転写因子をコードするMSX2遺伝子の変異は頭蓋形成異常患者で報告があり、また今回我々も頭蓋髄膜瘤とてんかんを伴った発達障害患者から新生分断変異を同定しています。これまでにPJA1の持つタンパク質分解機能によりMSX2タンパク質が標的として分解されること、MSX2タンパク質発現量の増加が頭蓋縫合早期癒合症と関連があることが報告されていることから、PJA1遺伝子変異のMSX2を介したメカニズムが三角頭蓋、てんかん、発達障害の発症に関与している可能性が示唆されます。


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