話題

実はよく知らないアトピー性皮膚炎
~理解不足が患者苦しめる~

 かゆみのある湿疹を伴い、軽快と増悪を繰り返すアトピー性皮膚炎は、罹患(りかん)率が5~30%と、かかりやすい病気と言ってよいだろう。重症化すると、家族関係に悪影響を及ぼしたり、学校でのいじめや働きづらい状況をもたらしたりすることもある。アトピーという病名は知っていても、実態は分かりにくく、周囲の理解も決して十分ではない。

アトピー性皮膚炎の不安や悩みは大きい

アトピー性皮膚炎の不安や悩みは大きい

 ◇アトピーで離婚も

 大阪はびきの医療センター(大阪府)の片岡葉子アトピー・アレルギーセンター長は、同センターの調査などを基に具体的な事例を紹介してくれた。重症アトピー性皮膚炎の30歳代の男性の場合、「ストレスが高く、一人のときに声を出して自分を責めている。症状の悪化のため、仕事を途中で放り出したことが何回もある」と訴えたという。また、小学生の頃、親に心配をかけさせないようにとの思いからアトピー性皮膚炎のつらさを伝えることをやめた40歳代の女性は、中学生時代に男子生徒からいじめられた。結婚したが、夫からアトピーのことを責められ、離婚したという。

講演する片岡葉子センター長

講演する片岡葉子センター長

 ◇「治らない」と諦め5割弱

 バイオ医薬品企業「アッヴィ」はアトピー性皮膚炎の患者1000人を対象にインターネットを通じて調査した。症状に関する不安や悩みについて最も多かったのは「かゆみ」の93.5%で、「皮膚の症状」86.1%が続いた。注目したいのは、「症状が繰り返されること」と回答した人が76.7%に上った点だ。

 片岡センター長は「アトピー性皮膚炎はアレルギー反応によって起きる単純な病気ではない。ストレスで悪化する。サイトカイン(主として免疫系細胞から分泌されるタンパク質)が脳を刺激し、抑うつを招き、不安をあおる」と言う。

 調査では、「治らないと諦めている」という患者が49.3%に上っている。片岡センター長は「アトピー性皮膚炎は良くなったり、悪くなったりを繰り返す慢性の湿疹だ。外用薬だけでは治らず、内服薬や薬剤の注射を併用する必要があるケースもある」と話す。

アトピー性皮膚炎は学業や仕事に悪影響を及ぼす

アトピー性皮膚炎は学業や仕事に悪影響を及ぼす

 ◇周囲の言葉に傷つく

 調査によると、アトピー性皮膚炎が原因で休学や退学、休職や退職など学業・仕事を中断したり、断念したりした経験のある患者が13.1%いた。

 「症状」について「周囲の理解がない」と感じている人は25・0%で、4人に1人の割合だ。「この病気による日常生活での負担やストレス」について「周囲の理解がない」と感じている人は31・6%と、さらに多くなっている。

 周囲から掛けられた言葉に傷ついたり、嫌な思いをしたりした経験がある人は53.5%と、半数を超えている。この背景には、周囲の理解不足があると見られる。

周囲の言葉で傷ついたり、嫌な思いをしたりする

周囲の言葉で傷ついたり、嫌な思いをしたりする

 片岡センター長は「アトピー性皮膚炎の症状や、患者の生活や対人関係への影響といった『疾病負荷』について周囲の人も正しく理解することが重要だ」と話す。

 アトピー性皮膚炎の原因には環境的なもの以外に、遺伝子的な要因もある。皮膚のバリアー機能に障害があったり、かゆみに敏感だったりする。IgE抗体が高かったり、炎症を起こしやすく長引きやすかったりするというアレルギー体質も関係する。

 ◇怖い目の合併症

 あたご皮フ科(東京)の江藤隆史副院長は「同じ皮膚疾患の乾癬(かんせん)に比べて、アトピーの認知度は高い。しかし、ただの湿疹症状ではないことは理解されていない」と話す。アトピー性皮膚炎は、「とびひ」や「たむし」、口唇ヘルペスなどの感染症を合併することがある。江藤副院長によると、最も注意しなければならないのは白内障や網膜剥離緑内障など目の合併症だ。

講演する江藤隆史・副院長

講演する江藤隆史・副院長

 「日本アレルギー友の会」の50周年記念誌などに視覚障害となった患者の声が寄せられている。15歳の時に左目が網膜剥離になったのは、かゆみから「まぶた」を強くこすったことが原因だ。20歳代で右目に違和感を覚えるようになり、緑内障を発症した。結局両目の視力を失ったが、恩人の励ましや夫の支えで「不思議と幸せを感じている」と語っている。

 ◇基本はステロイド剤

 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」(日本皮膚科学会)によると、薬物療法の項目で「ステロイド外用薬は基本となる薬剤」としている。ただ、ステロイド外用薬は専門医の指導に従い、適切に使う必要がある。江藤副院長は、こんな患者の例を紹介する。

 子どもの頃からアトピー性皮膚炎を患っていた30歳代の女性は、高校2年生からステロイドの塗り薬を使うちに症状は落ち着いた。大学3年生の頃から肌の状態がまた悪化していった。この女性は「ステロイドを広範囲に使うのは気が引けたので、肘や膝の内側など、その日最も炎症がひどい部位にできるだけ薄く擦り込んだ」と言う。かゆみは治まらず、つい引っかくので、まだら模様にかさぶたができてしまった。

 ◇時間かけて説明

 1990年代はステロイド薬に伴う副作用を恐れた「ステロイドバッシング・脱ステロイド」の時代だった。成人のアトピー性皮膚炎患者が増えていることに関し、東京都内の病院の専門医は「この病気は最初に発症した時の治療が大切だ。ステロイド剤を使用しなかったために成人してから再発したケースが、かなりあるのではないか」と指摘する。

 ステロイド剤に対する抵抗感は今もある。江藤副院長は新しい治療薬が出ていることを踏まえた上で、「まず、ステロイド剤を使ってみましょう」と、時間をかけて患者に説明する。患者の多くは納得してくれるという。

 「アトピー性皮膚炎は、慢性、反復性の病気だ。だから、上手に付き合ってほしい」。江藤副院長が強調するように、再発・重症化しないためには患者側も根気を持ってほしい。(鈴木豊)

【関連記事】


新着トピックス