Dr.純子のメディカルサロン

みんなでこころを考えよう!
~年末年始にお薦め3冊~

 興味深い本を3冊見つけたのでご紹介したいと思います。年末、年始などお時間がある時はこんな本はいかがでしょう。まず、子ども向きのように見えるが、実は深い意味が隠された絵本をご紹介します。

(文 海原純子)

◆<きもち>はなにをしているの? 河出書房新社 ティナ・オジェヴィッツ文・アレクサンドラ・ザヨンツ絵・森絵都 訳

<きもち>はなにをしているの?(河出書房新社)

<きもち>はなにをしているの?(河出書房新社)

 ポーランド生まれの児童作家、ティナ・オジェヴィッツによる文章、翻訳は作家の森絵都さん、そしてアレクサンドラ・ザヨンツの絵が見事に調和し、さまざまな気持ちを分かりやすく説明してくれています。と言っても、その説明は観念的なものではなく、想像力を刺激し心の奥の深い部分にすっと入って来るような、自然な理解になるのです。時には、ふっと微笑みが浮かぶようなユーモアが隠れていて、大人にとっても、もしかすると大人の方が、必要な絵本ではないかと思いました。

 <こだわり>はかこいをつくる

 <ねたみ>は、愛らしいものたちをかたっぱしからふんづける。

 あれもこれもぺしゃんこにしなけりゃと、

 休むひまもなくおおいそがし。

 <こんき>は、いごこちのいい庭を育てる。

 お子さんがいらっしゃる方は、お正月にこうした<気持ち>について、お子さんと絵本を見ながら話し合うのもいいのではないでしょうか。

 次にご紹介したいのは、科学的に幸福を検証する本です。

◆科学的に幸福度を高める50の習慣 島井哲志著 明日香出版社

科学的に幸福度を高める50の習慣(明日香出版社)

科学的に幸福度を高める50の習慣(明日香出版社)

 ポジティブ心理学とは、人の幸福感(ウェル・ビーイング)を科学的に検証していく研究分野です。ポジティブ心理学を初めて日本に紹介し、主観的幸福感などの研究を行っている著者による実践的な行動や考え方の紹介です。幸福感を持っている人が、どのような特徴を持ちどのような行動をしているのかをエビデンスを基に解説したもので、日常生活に取り入れられる行動習慣やものの考え方、人間関係の在り方などを具体的に紹介しています。

 挑戦を楽しむ、小さな目標をもって行動する、「今」に集中する、お金よりも時間を大切にする、経験にお金を使う―など日々の中で取り入れやすい「幸福感を高める」ヒントが50紹介されています。気持ちがついネガティブに傾いてしまうという人には、ぜひ読んでいただきたい。それほどネガティブではないと思うけれど、自分の気持ちをより良い状態にしておきたいという人にもお薦めです。新型コロナウイルスの感染が完全に収まらない今、気持ちがイライラしがちな人も多いと言えます。自分の心を守るヒントを知っておくことは大事ですね。

◆刑務所の精神科医 治療と刑罰のあいだで考えたこと 野村俊明著 みすず書房

刑務所の精神科医(みすず書房)

刑務所の精神科医(みすず書房)

 最近、高齢署の交通事故やうっぷんがたまって起きたことが疑われる電車内の事件や放火事件などの報道が気になります。事件直後は、週刊誌やネットを含めメディアは、繰り返し大量の情報を流します。

 しかし、こうした事件は加害者が逮捕・起訴され、裁判後に収監されると、その後は私たちの知る由もありません。犯人が少年院や刑務所などの矯正施設に収容されると、忘れられていきます。どんなに大きな事件であっても、塀の向こうのことは関心を持つ人は少ないでしょう。

 著者は、常勤・非常勤併せて矯正施設で20年以上精神科医として勤務して、こうした矯正施設の中での経験を伝えることの必要性を感じたことが本書の執筆動機になったということです。

 非行少年や受刑者と話す経験の中で、著者はこうした人たちの多くが、人生の不運や偶然に翻弄されていることに気が付き「ほんのちょっと人生が変わっていたら、自分もそのようになっているかもしれないと感じたりしたことがある」と語っています。子ども時代の虐待や家族の問題、高齢者の認知機能低下による犯罪などについて、冷静に詳細に語られる内容から著者の真摯な思いが伝わってきます。

 その犯罪はなぜ起きたのか、どのような背景があったのかを伝え、犯罪を繰り返さないために私たちが取り組まなければならないことは何かを気付かせてくれる一冊です。

【関連記事】


メディカルサロン