治療・予防

補聴器でも聞き取りにくい
~治療手段は人工内耳(九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科 中川尚志教授)~

 「声は聞こえているのに何を話しているか聞き取れない」。補聴器を使う高齢者からよく聞かれる悩みだ。九州大学病院(福岡市東区)耳鼻咽喉・頭頸(けい)部外科の中川尚志教授に、こうした悩みを解消する「人工内耳」について聞いた。

 ▽内耳の機能を肩代わり

 補聴器でも言葉が十分に聞き取れないのはなぜか。中川教授は「難聴は小さな音が聞こえないだけではなく、音の変化を聞き取る幅が狭くなるという問題もあります」と指摘する。

 聴覚が健全に働くには、音が中耳にある鼓膜と耳小骨を振動させ、内耳にある「蝸牛(かぎゅう)」で電気信号に変換され、聴神経を通じ脳に伝わり、音声や環境音と認識される必要がある。

 外耳や中耳の異常で音の振動が伝わりにくい状態を「伝音難聴」、内耳や聴神経、聴覚に関係する脳の機能低下で音の情報が減り、言葉がはっきり聞き取れない状態を「感音難聴」と呼ぶ。

 異常のない人は、小さな音から飛行機のごう音まで広い範囲の音の大小や高低の変化を聞き分けている。一方、感音難聴の人は、大きな音は正常聴力の人と変わらないが、音を聞き取れる範囲が狭いため、小さな音が聞こえないだけでなく音がゆがんで変化が分かりにくい。

 ▽唯一の治療法

 人工内耳は感音難聴に対する唯一の治療手段だ。日本では1985年に最初の手術が行われ、94年に保険適用となった。マイクで拾った音をデジタル信号に変換する体外装置と、手術で側頭部に埋め込み、体外装置から送られた信号を電気信号に変換、蝸牛に挿入した電極で聴神経を刺激する体内装置から成る。

 手術時間は約2時間半で、入院期間は4日程度。術後1週間以降に装置の調整やリハビリを行う。「内耳障害の場合、術後間もなくやや機械的な音で聞こえるようになり、1年で自然に聞こえる人もいます」

 治療費の自己負担額は各種助成制度の併用で5万~10万円程度。音楽や映画、カラオケ、さらには水泳やダイビングなどに対応する体外装置もある。

 国内では既に1万人以上が手術を受けているが、中川教授は「必要とする人にまだ普及していません。手術を行う病院をかかりつけの医師に紹介してもらうか、ネットなどで調べて直接相談するとよいでしょう」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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