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音楽に乗って心を動かし体を解放
~パーキンソン病患者のQOL改善目指すダンス~

 ◇音楽でリズムを与える

 パーキンソン病では、神経伝達物質のドーパミンが減少して脳からの運動の指令が体にうまく伝わらなくなって起こる運動症状のほかに、睡眠障害や気分の落ち込みといった非運動症状も見られる。国内の患者は16万人と推計されている。

長年ダンスの効用に着目してきた頼高朝子教授

長年ダンスの効用に着目してきた頼高朝子教授

 「高齢化とともに、この10年ぐらいで加速度的に増えています。神経内科が増えたことによって、発見されるようになったこともあります」。こう話すのは順天堂大学医学部付属順天堂越谷病院副院長で脳神経内科診療部長の頼高朝子教授だ。

 治療の基本は薬物療法だが、リハビリも大事なポイントだ。頼高教授はクラシックバレエの経験があり、心と体を解きほぐすダンスの効用に医学的見地から着目してきた。「自分がやっていなければ踊ることの楽しさに気付かなかったし、ダンスの効果について文献を調べるということもしなかったと思います」

 音楽を使った体操を考案し、16年から病院内で体操教室を開いて患者に指導。さいたま芸術劇場で行われた「ダンス・フォー・PD」の指導者向けワークショップを19年に受講したことをきっかけに、同年11月からスターダンサーズ・バレエ団の講師を招いて「パーキンソン病の患者さんのためのダンス教室」も始めた。今は体操教室とダンス教室を毎月1回ずつ開催している。

 「パーキンソン病はリズム感を失う病気なので、音楽でリズムを与えることで動きやすくなる。模倣してパフォーマンスするということも、ただ単調に動くより大脳を使います」と頼高教授。足を一歩前に踏み出しにくくなる「すくみ現象」というパーキンソン病に特徴的な症状がある人も、音楽や掛け声があると動けるようになったりするという。「楽しいことがあるとドーパミンが分泌されるからです。車椅子で来た人が歩いて帰ることもあります」

リハビリは継続することが大事

リハビリは継続することが大事

 パーキンソン病に対するダンスの効果については、アルゼンチンタンゴで運動機能などが改善したとの報告があるなど、少しずつ研究が進んでいるが、まだ十分検証されたわけではない。「ダンス・フォーPD」も、「セラピーではない」ことを明確にしている。指導者の育成など、普及に向けた課題もある。それでも、踊ることで気分が晴れ、集団でやることで人とのつながりを感じられることが患者のモチベーションになっているのは確かなようだ。

 頼高教授は、教室以外でも続けてもらうために、音楽に合わせて行う運動を収録したDVD「パーキンソン病患者さんの自宅でできる体操」「パーキンソン病患者さんのやさしい体操」を制作(詳細はNeuroscience Laboratory Japanのホームページを参照)。近く運動による介入の効果を検証する研究もスタートさせる。(編集委員・中村正子)

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