認知度不足の「デフリンピック」
~耳の不自由なアスリート大会(愛媛大学医学部付属病院 狩野拓也医師)~
4年に1度開催される、耳の不自由なアスリートの国際競技大会「デフリンピック」。2025年には日本初の東京大会が開催される。愛媛大学医学部付属病院(愛媛県東温市)の狩野拓也医師(耳鼻咽喉科)は自身も難聴で、男子バレーボール日本代表として3大会連続出場を目指している。
難聴の程度
◇世界73カ国から選手が参加
デフリンピックは、Deaf(耳が聞こえないの意味の英語)とオリンピックの造語。第1回夏季大会は1924年にフランスで開かれ、22年開催の夏季ブラジル大会には世界73カ国から約2400人が参加し、日本選手団は過去最多の計30個のメダルを獲得した。
「出場の条件は、補聴器や人工内耳を着けない状態で、両耳ともに聴力が普通の会話が聞き取りにくいレベル(55デシベル以上)であることです」
25年の夏季東京大会は活躍が期待される一方で、課題もあるという。
「認知度に関する調査では、パラリンピックの98.2%に対し、デフリンピックは11.2%と低く、メダル獲得が有望な選手が会社から大会中の休暇取得が認められないケースや、スポンサーが少ないため金銭的な負担が多いことなどがあります」
◇補聴器の普及を目指し
狩野医師は、生後半年から補聴器を装着してきたが、20年に人工内耳手術を受けた。
その理由を、「医療の現場では、言葉が命に直結する重大な情報です。しかし、医療従事者はマスクを着用するため、私はその人の口元が見えず、唇の動きを見て何を言っているのか、判別することができませんでした。電話の聞き取りにも苦労しました」と説明する。
補聴器を付けた状態での聞き取り検査では、静かな環境で31%、雑音下では13%しか分からなかったという。
手術は2~3時間で終わり、翌日から食事や歩行も可能だった。翌日の軽いめまい以外の症状はなかったという。
術後、「静かな環境下では88.3%、雑音下でも48.3%まで聞こえが上昇し、初めて歯を磨く音が聞こえました」。
ただ、補聴器や人工内耳の普及率が高いとは言えない。「難聴の人がよりよい生活を送るため、普及させるため、(デフリンピックを通じて)啓発を続けたい」と狩野医師は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2023/06/29 05:00)
【関連記事】