Dr.純子のメディカルサロン

増える従業員の適応障害
~組織挙げた対策が不可欠~

 この数カ月、適応障害の疑いで面談する人が非常に多くなっています。厚生労働省がまとめた2021年「労働安全衛生調査」(全国の約1万4千事業所についてオンラインで実施)によりますと、20年11月~21年10月にメンタル不調により連続1カ月以上休職したり退職したりした従業員がいる事業所は10.1%で、前年の9.2%から増加しています。

 メンタル不調の多くを占める適応障害は環境から離れて休息するだけではなく、その人のストレス適応力を上げることが大事ですが、さらに、その人の置かれた環境に問題がないかを調べて必要な改善を行うことが必要不可欠です。面談で適応障害の人がどのように働いていたかを尋ねると、「いくら本人のストレス適応力を上げようとも、これでは体調を崩してしまうだろうな」と思うことがしばしばです。

(文 海原純子)

英CCLAの評価指標や新たな経営講座をテーマとした講演会

英CCLAの評価指標や新たな経営講座をテーマとした講演会

 ◇防ぎたい「メンタル不調ドミノ」

 長時間労働の問題だけではなく、社内のハラスメント、業務の裁量権のなさ、上司の気分や顔色により変わる業務内容、賃金格差、不公平な人事、ワーク・ライフ・バランスの悩みなどは、組織全体で改善していく必要がある内容です。ただ、組織の問題がメンタルヘルスに影響することに気付いていない、あるいは気付いてもどのように変えていいか分からない管理職が多いのば問題だと思います。コロナ禍の経営に手いっぱいで、「メンタル不調などに構っていられない」「それは人事総務に任せる内容だ」と思っている経営者もいます。

 メンタルヘルスは体調を崩した本人の適応不足の問題として片付けてしまうと、次々に体調不良者が出て「メンタル不調ドミノ」状態に陥ります。これは企業の生産性を低下させ、業績を悪化させる要因となります。

 ◇活気ある経営へ新しい概念の講座

 社員が気持ち良く働ける環境を提供するのが企業経営者に必要な役割で、それが経営を上向きにしていくポイントになります。社員の健康増進に投資することが業績を向上させるという健康経営の概念をさらに発展させ、今回、昭和女子大ダイバーシティ推進機構は「ウェルビーイング経営」という概念の下に、企業の管理職や人事総務の担当者に知っていただきたいメンタルヘルス向上と企業のリスク管理に必要な内容をまとめた講座を開講します。

 この講座を開くきっかけになったのは、英国でメンタル不調による休職・退職で発生する損失の改善を働き掛ける必要性から、英最大規模の投資運用機関CCLAが22年5月に英大手上場企業100社のメンタルヘルスへの取り組みを評価する指標CCLA Corporation Mental health Benchmark-UK100を発表したことでした。

 この企業評価指標では社員のメンタルヘルスに関する企業の在り方・姿勢が問われており、雇用体制や親会社、子会社による不平等感の是正、ジェンダー平等への取り組みなども評価基準の中に含まれています。そして何よりメンタルヘルス対策について、人事総務任せにするのではなく、企業のCEOがリーダーシップを取ることを求めています。このベンチマーク作成には私も無報酬で関わっています。企業のメンタルヘルスを担う人事総務をはじめ管理職へのメンタルヘルス情報の提供と知識の底上げが、メンタル不調者を減らし、気持ちよく効率的に働ける環境をつくることにつながると考えたからです。

 講座は12月3日にスタート。来年3月までの全8回16コマで、健康経営の歴史と背景、CCLA Benchmarkの紹介、メンタルヘルスに関する基礎知識、ストレス適応力、ハラスメント対策、病気を抱えながら働く人への支援、賢い医療情報の見極め方、職場のコミュニケーションレベルの向上、感染とダイバーシティー、アルコール依存対策、職場の禁煙対策、経済産業省から見た健康経営、幸福経営の実践例など、職場のリスク管理に必要な内容が盛り込まれています。いずれもその分野の第一線で活動する講師の話が聞けます(https://univ.swu.ac.jp/files/2022/11/a153eee752fdc08e7ce74d02a29308ac.pdf https://univ.swu.ac.jp/topics/2022/11/10/55638/)。

 講義は土曜日のオンライン聴講が中心です。初回と最終回は対面で行いますが、地方在住で当日参加できない人には録画をお送りします。一日のみの参加も可能。企業単位で、また個人の場合は関心のある内容を選んで参加し、社内で情報を共有していただければと思います。(了)

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