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コロナ禍で年間5人に1人が「かかりつけ医」を失うか変更
〜かかりつけ医定着の鍵を握るのは、プライマリ・ケア機能の強化〜 東京慈恵会医科大学

 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部の青木拓也准教授、松島雅人教授らの研究グループは、全国的な縦断研究を実施し、調査開始時点でかかりつけ医を持つ住民をコロナ禍の1年間(2021年5月~2022年4月)追跡しました。その結果、約2割でかかりつけ医として相談できる医師がいなくなったか、かかりつけ医の自発的な変更があったことが明らかになりました。また、かかりつけ医の喪失や変更は、高いプライマリ・ケア機能(≒かかりつけ医機能)を発揮する医師を持つ人ほど少ないことも明らかになりました。

 今般、COVID-19パンデミックをきっかけに、プライマリ・ケア(身近でなんでも相談できる総合的な医療)を担う「かかりつけ医」の役割に大きな注目が集まっており、医療制度議論においても、かかりつけ医機能の強化が重要な論点になっています。しかし、かかりつけ医の有無等が経時的にどのように変化するか、住民を追跡した縦断研究はこれまで国内で実施されておらず、またかかりつけ医が提供する機能が、その変化にどのような影響を及ぼすかは、国際的にも明らかになっていませんでした。

 本研究では、調査開始時点でかかりつけ医を持つ住民をコロナ禍の1年間追跡した結果、12.8%でかかりつけ医として相談できる医師がいなくなり、6.3%で自発的なかかりつけ医の変更があったことが明らかになりました。また、かかりつけ医の喪失や変更は、高いプライマリ・ケア機能(≒かかりつけ医機能)を発揮する医師を持つ人ほど少ないことも明らかになりました。
 本研究の結果から、かかりつけ医の定着・普及のためには、国民に向けた啓発や情報提供に加え、かかりつけ医側の機能強化の取り組みが重要であることが示唆されました。
 本研究の成果は、2024年2月21日にFamily Practice誌に掲載されました。

【研究成果のポイント】
•    全国的な縦断研究を実施し、調査開始時点でかかりつけ医を持つ住民をコロナ禍の1年間追跡。
•    12.8%でかかりつけ医として相談できる医師がいなくなった。
•    6.3%で自発的なかかりつけ医の変更があった。
•    かかりつけ医の喪失や変更は、高いプライマリ・ケア機能(≒かかりつけ医機能)を発揮する医師を持つ人ほど少なかった。


研究の詳細

1.背景
 今般、COVID-19パンデミックをきっかけに、プライマリ・ケア(身近でなんでも相談できる総合的な医療)を担う「かかりつけ医」の役割に大きな注目が集まっており、医療制度議論においても、かかりつけ医機能の強化が重要な論点になっています。
 かかりつけ医の存在は、住民に提供される医療の質向上や入院の減少などと関連することが報告されています。これまで日本でもかかりつけ医に関する複数の横断調査が実施されていますが注1)注2)、かかりつけ医の有無等が経時的にどのように変化するか、住民を追跡した縦断研究はこれまで国内で実施されておらず、またかかりつけ医が提供する機能が、その変化にどのような影響を及ぼすかは、国際的にも明らかになっていませんでした。
 そこで本研究は、コロナ禍においてかかりつけ医を持つ住民を追跡し、かかりつけ医の喪失や変更がどの程度発生するか、またそれらとかかりつけ医が発揮するプライマリ・ケア機能(≒かかりつけ医機能)との関連を検証することを目的に実施されました。

2.手法
 本研究は、COVID-19パンデミック下の2021年5月〜2022年4月に実施されたプライマリ・ケアに関する全国前向きコホート研究(National Usual Source of Care Survey: NUCS)のデータを用いて実施されました。NUCSは、代表性の高い日本人一般住民を対象とした郵送法による調査研究です。民間調査会社が保有する約7万人の一般住民集団パネルから、年齢、性別、居住地域による層化無作為抽出法を用いて、40〜75歳の住民を選定しました。そのうち、本研究の対象者は、調査開始時点でかかりつけ医を持つ者としました。
 追跡期間の12ヶ月間におけるかかりつけ医の喪失または変更を主要評価項目に設定しました。かかりつけ医のプライマリ・ケア機能は、Japanese version of Primary Care Assessment Tool (JPCAT)短縮版を用いて、調査開始時点で評価を行いました。JPCATは、米国Johns Hopkins大学が開発し、国際的に広く使用されているPrimary Care Assessment Toolの日本版であり、その妥当性・信頼性が検証されたプライマリ・ケア機能評価ツールです注3)注4)。JPCATの下位尺度は、近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性といったプライマリ・ケアの特徴的な機能であり、2023年の医療法改正に盛り込まれたかかりつけ医機能注5)や日本専門医機構の総合診療専門医のコンピテンシー注6)と重なります。
 統計解析では、多項ロジスティック回帰分析を用いて、年齢、性別、教育歴、世帯年収、慢性疾患数、健康関連QOL (Quality of Life)といった住民の属性の影響を調整し、かかりつけ医の喪失・変更とプライマリ・ケア機能との関連を検証しました。

3.成果
 調査開始時点でかかりつけ医を持ち、追跡調査を完了した725人を解析対象者としました(追跡率 92.9%)。解析対象者のうち、追跡期間中に93人(12.8%)でかかりつけ医として相談できる医師がいなくなり、46人(6.3%)で自発的なかかりつけ医の変更が発生しました。
 住民の属性の影響を統計学的に調整した結果、高いプライマリ・ケア機能(JPCAT総合得点が高い)を発揮する医師を持つ住民ほど、かかりつけ医の喪失が少ないことが明らかになりました [調整相対リスク比 (JPCAT総合得点10点上昇あたり): 0.70, 95%信頼区間: 0.60–0.81]。また、かかりつけ医の変更についても同様の結果でした [調整相対リスク比 (JPCAT総合得点10点上昇あたり): 0.73, 95%信頼区間: 0.60–0.88]。
 プライマリ・ケア機能とかかりつけ医の喪失・変更との関連は、JPCAT総合得点だけでなく、下位尺度得点(継続性、包括性、地域志向性)においても同様に認められました。


4.今後の応用、展開
 本研究の結果から、かかりつけ医の定着・普及のためには、国民に向けた啓発や情報提供に加え、かかりつけ医側の機能強化の取り組みが重要であることが示唆されました。2023年の医療法改正に基づき、現在かかりつけ医機能制度整備の具体的な内容の検討が行われており、今後実効的な取り組みに繋がることが期待されます。
 今回の研究成果をもとに、かかりつけ医の定着・普及やプライマリ・ケア機能(≒かかりつけ医機能)の強化に関するエビデンスを今後もさらに構築していく予定です。

5.脚注、用語説明
注1)Aoki T, Matsushima M. Factors associated with the status of usual source of care during the COVID-19 pandemic: a nationwide survey in Japan. BMC Prim Care. 2023;24(1):193.
注2)日本医師会総合政策研究機構. 第8回日本の医療に関する意識調査
https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/WP480.pdf (accessed February 21, 2024)
注3)Aoki T, Inoue M, Nakayama T. Development and Validation of the Japanese version of Primary Care Assessment Tool. Fam Pract. 2016;33(1):112-117.
注4)Aoki T, Fukuhara S, Yamamoto Y. Development and Validation of a Concise Scale for Assessing Patient Experience of Primary Care for Adults in Japan. Fam Pract. 2020;37(1):137-142.
注5)厚生労働省. かかりつけ医機能について
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001193028.pdf (accessed February 21, 2024)
注6)日本専門医機構. 総合診療領域専門研修プログラム整備基準
https://jbgm.org/menu/専門研修プログラム/#con1 (accessed February 21, 2024)

6.論文情報
掲載誌:Family Practice
論文タイトル:The Role of Primary Care Attributes in Preventing Loss or Change of Usual Source of Care: A Nationwide Cohort Study
著者:Aoki T, Zukeran S, Matsushima M.
DOI:10.1093/fampra/cmae006
*本研究は、JSPS科研費 JP20K18849、ファイザーヘルスリサーチ振興財団研究助成 21-E-01の助成をうけたものです。

【メンバー】
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 准教授 青木拓也
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 大学院生 瑞慶覧聡太
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 教授 松島雅人


以上


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