インタビュー

経口中絶薬、承認から1年
~広がり欠く取り扱い病院~ 産婦人科・堀本江美医師に聞く(上)

 2023年4月に厚生労働省が承認し、翌月に取り扱いが始まった経口妊娠中絶薬「メフィーゴパック」。諸外国から20年以上遅れての使用開始となったが、1年たった今でも導入する医療機関は限られ、必要とする女性に届きにくいのが現状だ。「薬剤による妊娠中絶ハンドブック」を監訳、出版した苗穂レディスクリニック(札幌市)の堀本江美院長(産婦人科医)は「女性自身が思う通りの人生を選び取るための選択肢として、薬剤による妊娠中絶のことを、できるだけ多くの人に知ってほしい」と話す。

 前編では、薬剤による人工妊娠中絶の実施方法などについて話を聞いた。

 ◇妊娠数の1割強が中絶選択

 ―人工妊娠中絶はどのくらいの頻度で行われていますか。

日本家族計画協会の資料より

日本家族計画協会の資料より

 厚労省が公表した人工妊娠中絶届け出件数は、2022年度の1年間で12万2725件に及びます。実施率(15~49歳女子人口千対)は5.1%、およそ20人に1人が経験している計算です。年齢別に見ると、最も実施率の高い20代前半では1割に達しています。

 一方、妊娠数に対する中絶の割合は13.7%。年齢別では14歳以下が84.5%、15~19歳が67.5%と若年層で高く、更年期世代に当たる45~49歳も41.3%と比較的高い割合となっています。月経が不規則になってきて、閉経かと思ったら妊娠していたというケースが考えられます。

 人工妊娠中絶は、とかくタブー視されがちなところもあって情報に触れる機会も限られますが、妊娠の可能性がある女性なら誰にとっても決して無縁というわけではありません。

 ◇欧米に大きく後れ

 ―日本でハンドブックを翻訳、出版しようと考えたきっかけは何ですか。

 大学病院から地域の第一線の産婦人科クリニックに移った時、性暴力被害を受けた女性や、避妊して困っている女性がとても多いことに驚きました。大学病院では出産やがんの手術がメインで、中絶手術を行う機会はありませんでした。

 数十年前は、まだ女性の権利が軽んじられていて、女性は我慢できない男性の性欲を受け止めなければいけないというような考え方をする人も多くいました。私は産婦人科医として、どうしたら目の前の困っている女性を助けられるかを考えてきました。

堀本院長監訳のハンドブック

堀本院長監訳のハンドブック

 日本の避妊や中絶に関する状況は、世界的に見ても非常に遅れています。中絶に関して言うと、日本では女性の体に負担の大きい手術が主流でしたが、欧米ではやり方が全然違います。2016年にフランスに見学に行った時、あまりの違いに衝撃を受けました。

 20年以上遅れて、薬剤による妊娠中絶が日本でできるようになったものの、日本の産婦人科医は当然ながら経験がありません。そこで、フランスでベストセラーになっている本書を翻訳し、日本でも安全に妊娠中絶薬が使用できる環境づくりの一助になればと思ったのです。私自身は中絶を奨励したいわけではなく、それを必要とする女性にとって、医師の立場として、こうした選択肢があるということを知ってほしいのです。

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