Dr.純子のメディカルサロン
肺がんと闘う 患者NPO代表 長谷川一男さん
海原 アンケートのフリーコメントでは、現場で働くサバイバーの受動喫煙のつらさが記されていましたね。私は読んでいて涙が出ました。
長谷川 とても心が苦しくなるようなコメントが寄せられました。40代の女性の声を紹介します。
私は肺がん、ステージ4です。完治なしの延命治療中。まだ幼い子供が2人います。月々の治療費4万4,000円が毎月かかります。医療費のためにパートを始めました。田舎町の就活は厳しい。やっと探せた職場は、喫煙の中での作業のため一日で辞めました。やっと探した今のパートも、冷暖房ない倉庫内で、休憩中は一人車内で過ごしています。くたくたになって働いてお給料7万円がやっと。ほぼ医療費で消えていきます。子どもの習い事もやめさせてしまいました。薬と仕事で体がきつく、子供の行事も見てあげられないこともしばしば。たとえ延命治療でも生きてゆくために働かざるを得ないのです。(議員の)「がん患者は働かなければいい」の発言、悔しくて、悲しくて。
なかには受動喫煙に耐えられず、職場を辞めた人もいます。
50代の男性の声です。
代行運転業。お客様の車を運転しお運びした先輩が仕事を終え、私の車に乗り込んできた時にたばこを吸い始めました。その先輩は私が肺がんに罹患(りかん)したこともご存じです。自分も吸っていたのでその気持ちは分かります。その時にはたばこをやめてくださいとは言えませんでした。人間関係もありますし、職のこともあります。その時に国としての配慮があればどれだけ救われるかと実感しました。そしてそのまま辞めました。その職業を遂行する能力があれば仕事ができるというのが理想です。先日の議員の発言は「職場を変えればいい」との発言でしたがその職場も制限されているのが実態です。
もう一つ、強調しておかねばならないことがあります。家庭で受動喫煙を経験している肺がん患者が6.5%いました。先ほど申し上げた通り、肺がん患者にとって受動喫煙は恐怖です。しかしながら身内の喫煙者から受動喫煙を受け続ける人がいることがわかりました。かなり驚いています。
このような結果を見ると、やはり法規制が必要との思いが強くなります。来年の通常国会で決まると思います。私たちは受動喫煙防止の法律制定に向けて声を上げていきます。皆さんもぜひ応援してください。私たちのような肺がん患者をつくらないために。そしてなによりも、子どもたちに受動喫煙のない未来をつくるために。
海原 がんサバイバーの方の生の声というのは病気を持たない人には分からない部分や気付かないことがたくさんあります。がんと闘いながら、家庭と仕事に悩み、さらに飲食店や職場で受動喫煙の恐怖を味わっている人々の真実を知ってほしいと強く思いました。
長谷川一男(はせがわ・かずお)
NPO法人「肺がん患者の会ワンステップ」代表。1971年東京都生まれ。喫煙歴はないが、2010年に肺がんを発症し、現在ステージ4。15年にワンステップを設立。全国11の肺がん患者会で構成する「日本肺がん患者連絡会」の代表も務めている。患者の声を医療関係者や行政などに伝えて現状の改善を目指すアドボカシー活動の功績を認められ、16年に世界肺癌学会の「ペイシェント・アドボカシー・アワード」を受賞。
(2017/11/21 15:20)