教えて!けいゆう先生

受診時に症状がなくなっていても大丈夫
言葉や写真で経過を医師に伝えましょう 外科医・山本 健人

 私は幼い頃に、気管支ぜんそくアトピー性皮膚炎を患って、病院によく通っていました。また、お腹もひどく弱かったので、大事な試験の日に、お腹を壊すなどして苦労していたのを、今でもよく思い出します。

受診時に症状がなくなっていたり、軽くなっていたりしたとしても、心配しないでください【時事通信社】

 さて、そんな私が時々経験したのが、病院に行って医師に会う日に限って、症状が良くなってしまうという現象です。

 例えば、皮膚の調子が悪くて皮膚科に行く予定を立て、いざ行く日になると、直近で最も皮膚の調子がいい、などということがあります。お腹の調子が悪い時も、病院に行く日に限って症状が軽くなってしまう、ということがありました。

 もちろん、症状が良くなるなら、それほど嬉しいことはないはずです。ところが、何となく残念な思いもあるのです。どうせ病院に行くなら、「一番ひどい時」を医師に見てほしいと思うからです。

 ◆症状に波がある病気も

 実は、私は医師になってから、同じような事象を、医師の側から見るようになりました。外来にやってきた患者さんが「きのうは本当に調子が悪かったのに、きょうは良くなってしまったんです」と言って、残念がる様子を見ることがよくあるのです。

 確かに「最も悪い時がどうであったか」を医師に見てもらいたい、と思うのは自然なことです。

 しかし、医師は「受診した瞬間の症状」だけを見て、何らかの判断を下すわけではありません。ある瞬間の症状だけでなく、「症状が現れてから今に至るまで、どのような経過であったか」も重要な情報だからです。

 つまり、「今は良くなっている」というのも、一つの重要な「経過」なのです。

 例えば、「痛み」についていえば、常に持続して波のないものを「持続痛」、良くなったり悪くなったりを繰り返し、痛みに波のあるものを「間欠痛」と呼び、それぞれを医学的に区別します。

 いずれも重要な「症状の経過」だからです。

 ◆写真も有効な手段

 とはいえ、外観に変化が現れる症状であれば、その経過を口頭で説明するのが難しいと感じることも多いと思います。

 例えば、足の付け根がぽっこり膨らむ「鼠径(そけい)ヘルニア」という病気があります。「脱腸」という“あだ名”の方がよく知られているかもしれません。

 鼠径ヘルニアの場合、受診する日に限って膨らみが軽い、などというケースでは、ひどかった時がどうであったかを医師に伝えにくいと感じる患者さんが多いようです。

 このように、症状が外観に現れる場合は、写真を見せるのも一つの手です。今はスマホで簡単に写真を撮れる時代です。

 特に症状がひどい時に、いろいろな方向から写真を撮影しておけば、「ひどい時がどうであったか」をうまく説明できずに悩む必要はありません。

 受診した後に、「症状のことが医師にちゃんと伝わったのだろうか」「ひどい時に診てもらったら違う判断に至ったのではないだろうか」と、不安になることも、少なくなるのではないでしょうか。

 中には、症状が良くなったら病院に行ってはいけないのではないか、と考える人もいらっしゃいますが、そんな心配はいりません。ただ、症状の経過をうまく伝える準備ができていれば、お互いにとって安心でしょう。

 次に何かの症状で病院に行く時は、ぜひ参考にしてみてください。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者と病院をうまく使い倒す34の心得」(KADOKAWA)、「がんと癌は違います 知っているようで知らない医学の言葉55 (幻冬舎)」など多数。

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