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感染力の強いオミクロン株の登場で、新型コロナウイルスの感染者数が急激に増加した。ワクチンの追加接種などの対策が急がれる中、期待されるのがインフルエンザで大きな役割を果たしている軽症段階から使用できる経口治療薬だ。患者の多くを占める軽症者への早期治療で重症化を防ぐと共に、感染の拡大を防ぐことができる。2021年12月から国内での使用が始まった最初の内服治療薬「モルヌピラビル」に関する記者説明会が1月、米製薬大手メルクの日本法人MSDによって開催された。
この内服薬は錠剤で、18歳以上で発症5日以内の患者に1日2回、5日間服用する。服用後細胞内に取り込まれた成分が新型コロナウイルスの増殖に必要なRNA転写を阻害することで症状の増悪や他者への感染を抑制する。ただ、承認前の治験段階では、下痢やめまいなどの症状を訴えた例があった。さらに妊婦や妊娠の可能性がある女性は服用できないほか、適正使用と供給量の両面から投与対象を選考する必要があるとされる。
米製薬大手メルクなどが開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「モルヌピラビル」=MSD提供
◇ガイドライン基に医師判断
現状では、同薬は全量を政府が買い上げ、必要な患者に現物として提供する形式で処方される。投与対象は単に新型コロナウイルスに感染・発症しているだけでなく、厚生労働省の事務連絡により「重症化リスク」が相対的に高い患者に限定されている。このリスクについては、日本感染症学会などが「高齢」「呼吸器や腎臓などにある種の持病がある」と例示しているのを参考に、診察に当たった医師が判断するとされている。
感染症学会の例示を見ると、年齢では61歳以上とされ、重度の肥満や糖尿病などのほか、がんや慢性腎臓病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、心不全や冠動脈疾患などの重篤な心疾患、肝硬変など重度の肝臓疾患などが挙げられている。
松本哲哉主任教授提供
◇時間要するリスク確認
この点について、国際医療福祉大学の松本哲哉主任教授(感染制御学)は「重症化リスクの選定と、発症後5日以内の投与という二つの条件が、現状では問題になっている」と指摘する。年齢や肥満度はともかく、慢性腎臓病や糖尿病、肝臓疾患などは患者への問診で聞き取るしかない。「患者がどの病気なら内服薬の対象になるか理解していないことも多く、全てのリスク因子を確認するには時間がかかる」と説明する。
◇速やかな院内手続きを
現状では、診察後にPCRなどの検査で感染の確認がされている。同教授は「患者数の増加で(大学病院でも)検査結果が判明するまで1日以上かかることもある。発症直後の受診ならともかく、3日目前後での受診では検査結果が出てから、再度この薬の説明や問診をしていては間に合わない可能性がある」と指摘した。
松本教授もこれまでに10人程度の投与実績がある。松本教授は「最初の問診段階で、処方が可能かどうかを確認する持病のチェックから、新型コロナウイルスに感染していた場合に、この薬の処方に同意する書類への署名まで終えておく」とするとともに、「その上で、検査結果の判明と同時に(処方に関する)院内手続きに取るようにした」と述べ、処方プロセスもよく検討しておくことの重要性を強調した。(了)
(2022/02/10 05:00)
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