一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏
(第15回)開頭手術の剃毛やめる=患者目線、常識を疑え
世界保健機関(WHO)は2016年11月、手術部位感染予防ガイドラインを初めて発表。手術部位の剃毛に関して、皮膚の損傷によって逆に感染リスクを高める可能性があると指摘、実施しないことを強く推奨すると明記された。上山氏は30年前、すでにWHOのガイドラインを先取りしていたことになる。
医者目線ではなく患者目線で考え、実行してきたことは数限りなくある。手術の傷を覆うガーゼの代わりに、生理用ナプキンを使おうと考えたこともあった。
「血液がべったり付いたガーゼを剥がすときに患者さんが痛がるので、何とか方法はないかと考えました。生理用ナプキンは血液を吸収して肌にくっつかないようにできているでしょう? それで奥さんに全種類のナプキンを買ってきてもらいました。家でナプキンを一つずつ解体する姿を見て、気がおかしくなったのかと思ったって言われました」
上山氏はナプキンの高分子吸収体の機能に感動。手術の傷専用のナプキンを開発できないかメーカーに掛け合ってみたが、医療水準の滅菌処理が難しいからと実現には至らなかった。
患者に苦痛を与えずに確実に点滴の針を刺すために、自分の腕で何度も練習した。鼻からカテーテルを入れる方法も、自分の体で「人体実験」。「吐き気がして『これはかなり苦しいですね』と先輩に言うと、『お前、バカか』と言われました。そんなことをする人は誰もいないって」
フロントランナーとして走り続けるということは、常に人がやったことのない道を進んでいくということ。「軸足を患者に置いていれば、大きく間違ったことはしない」という恩師、伊藤善太郎氏の言葉が道しるべになって、上山氏の背中を押し続けている。(ジャーナリスト・中山あゆみ)
→〔第16回へ進む〕両親と確執も、最期はみとる=家庭は円満、リタイア後の夢も
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(2017/12/21 10:00)