一流に学ぶ 角膜治療の第一人者―坪田一男氏

(第9回)日本トップの再生医療=冊子に込めた支援者への感謝

 ◇患者からの手紙

 治療から10年たち、青年から坪田氏の下へ近況を知らせる手紙が送られてきた。

 「その後、結婚して3人の子どもの父親になり、『わが子の成長をこの目で見ることができるのは一番の幸せです』と書いてありました。やはり眼科医の仕事をしていて一番うれしいのは、目が見えるようになって患者さんに喜んでもらえることです」

 東京歯科大の眼科が手掛ける角膜移植や角膜上皮細胞の幹細胞移植などの角膜手術は年間400件に上り、2位以下を大きく引き離して日本で断トツの1位になった。全国で行われる角膜手術の約4分の1を担っていたことになる。

 ◇6代目教授として母校へ

 坪田氏は角膜移植とドライアイについて、臨床と研究の両方でトップの地位を手にした。そして2004年4月、4代目の植村恭夫教授を師匠に選んで眼科への道を決めた母校の慶応に、6代目の教授として戻って来た。

 「師匠のようになりたいと思っていたので、慶応の教授になれたことは本当にうれしかったですね」

 角膜手術の件数、論文の件数ともに圧倒的だったことに加え、アイバンクに関わる活動、社会貢献活動への取り組みが認められた結果だった。毎年の活動状況を「アニュアルレポート」という冊子に残してきたことも、プラスに働いたようだ。各研究グループの取り組みや国内外の学会活動、講演、論文などの活動内容が詳細にまとめられている。発行部数はなんと3000部だ。

 「僕たちの研究は多くの人々の支えがあって成り立っています。だから、支援者の方々にどんな研究が進んでいるのかを報告する責任があります」。冊子は支援者のほか、患者を紹介してくれた医師やクリニック、企業をはじめ、学会会場で配布したり、患者用に外来に置たりしている。

 冊子には、坪田氏が率いる眼科学教室のスタッフの顔写真が、研修医や大学院生、検査スタッフまで含め掲載されている。写真に写ったたくさんの明るい笑顔が医局の雰囲気を物語っているようだ。

(ジャーナリスト・中山あゆみ)


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