「医」の最前線 AIと医療が出合うとき

医療における大規模言語モデルの価値
~急進する新技術がもたらすもの~ (岡本将輝・ハーバード大学医学部講師)【第17回】

オンライン診療を受ける女性。将来はChatGPTが回答者になるかもしれない

オンライン診療を受ける女性。将来はChatGPTが回答者になるかもしれない

 ◇ 医療特化型大規模言語モデルの構築

 このように、大規模言語モデルの医療における有効性が強く期待される中、Google Healthは23年3月に開催した年次イベント「The Check Up」において、医療領域特化の大規模言語モデル「Med-PaLM」の最新版を紹介した。Med-PaLMは22年末にGoogleが発表したもので、医学的な質問に対して正確かつ高品質な回答を生成することを目的とする。Med-PaLMの回答では事実の正確さや偏り、有害性の程度を判断するための徹底的な精査が行われており、現時点でも特定の医学的質問においては、臨床医と同等の回答精度、あるいはそれ以上に詳細な情報提供が可能としている。一方、Google Healthのリサーチャーらは「あらゆる質問において完璧な状態とは言えない」ことも認めており、「消費者がこの技術にアクセスできるようになるには、まだ時間を要する」とした。

 スタートアップとして、医療向け大規模言語モデル開発とそのサービス展開に取り組む例も見られ始めている。特に注目を集めるHippocratic AIは、シードラウンドで5000万ドル(約69.5億円)という大型調達を行った。同社はシリアルアントレプレナーのMunjal Shah氏が今年立ち上げたものだが、OpenAIの躍進を受け、大規模言語モデルへの大きな注目が後押しすることで、シリコンバレーの投資家による希少な大規模ラウンドに結び付いている。このような「ドメイン特異性を持った大規模言語モデル」は、専門家の協力を通じたモデル調整とカスタマイズによって、一般的なモデルには達成し得ない高い専門性を獲得できる可能性がある。

 ここまでの有望な検証結果と市場動向を見る限り、この先、ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルが臨床実装され、医療を強力に支援するようになる可能性は非常に高い。同時に、エラーやバイアス、プライバシー、倫理、法的制約と規制などについて解決すべき課題が多く存在することも、また事実だ。責任ある倫理的な方法でのツール提供が実現した時、医師・患者関係だけでなく、医療のあり方そのものにも大きな変化がもたらされるかもしれない。特にスクリーニングや初期診断、治療方針策定、フォローアップ、セカンドオピニオン、患者および医療者教育などは激変する可能性がある。(了)

【引用】
(※1)Kung TH, Cheatham M, Medenilla A, et al. Performance of ChatGPT on USMLE: Potential for AI-assisted medical education using large language models. PLOS Digit Health. 2023; 2: e0000198. https://doi.org/10.1371/journal.pdig.0000198
(※2)Das D, Kumar N, Longjam LA, et al. Assessing the Capability of ChatGPT in Answering First- and Second-Order Knowledge Questions on Microbiology as per Competency-Based Medical Education Curriculum. Cureus. 2023; 15: e36034. doi: 10.7759/cureus.36034.
(※3)Performance of ChatGPT as an AI-assisted decision support tool in medicine: a proof-of-concept study for interpreting symptoms and management of common cardiac conditions (AMSTELHEART-2).
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2023.03.25.23285475v1.full
(※4)Ayers JW, Poliak A, Dredze M, et al. Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum. JAMA Intern Med. 2023. doi:10.1001/jamainternmed.2023.1838.


岡本将輝氏

岡本将輝氏

【岡本 将輝(おかもと まさき)】
 米ハーバード大学医学部放射線医学専任講師、マサチューセッツ総合病院3D Imaging Research研究員、The Medical AI Times編集長など。2011年信州大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科専門職学位課程および博士課程修了、英University College London(UCL)科学修士課程修了。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員(DC2・PD)、東京大学特任研究員を経て現職。他にTOKYO analytica CEO、SBI大学院大学客員教授(データサイエンス・統計学)など。メディカルデータサイエンスに基づく先端医科学技術の研究開発、社会実装に取り組む。

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