こちら診察室 学校に行けない子どもたち~日本初の不登校専門クリニックから見た最前線
うつ病を見逃さないための注意点 【第5回】
うつ病が背景にある不登校児童生徒への支援は、単なる登校刺激だけでは不十分(イメージ)
◇うつ病による不登校児童生徒への支援
うつ病が背景にある不登校児童生徒への支援は、単なる登校刺激だけでは不十分です。うつ病自体への適切な治療と並行して、総合的なアプローチが必要となります。この複雑な問題に対処するためには、医療、教育、家庭の連携が不可欠です。
まず、医療機関との連携が極めて重要です。ここまで述べてきたように、クリニックを受診するレベルの不登校児童生徒の多くが何らかの精神疾患を抱えており、その中でもうつ病は最も多いものの一つです。学校や関係機関は地域の児童精神科医や心療内科医との連携体制を構築し、うつ病の疑いがある場合は速やかに診察を受けられるよう支援する必要があります。
医療機関での診断を受けた後は、適切な薬物治療とともに心理的な支援も行います。認知行動療法的アプローチも有効とも言われています。Kearneyらの研究では、うつ病を伴う不登校児童生徒に対する認知行動療法の有効性が報告されています[3]。スクールカウンセラーや専門家の指導の下、認知のゆがみを修正する練習や、小さな目標設定による達成感の積み重ねなどを行うことで、児童生徒の心理的な回復を支援できるとされています。
こうした医療・心理的サポートと並行して、学校でのサポートも必要です。Finningらの研究によると、うつ病による不登校からの復帰には段階的なアプローチが有効とされています[7]。別室登校から始め、徐々に教室での滞在時間を延ばしていくなど、児童生徒の状態に合わせた柔軟な対応が求められます。この過程では学校環境の調整も重要です。また田中恒彦氏が示すように、うつ病の子どもは学業のプレッシャーや対人関係のストレスに苦しむことが多いため[4]、学習内容や課題の量の調整、いじめ防止のための心理教育、教職員への適切な対応方法の指導などを通じて、安心できる学校環境を整えることが大切です。
もちろん、医療や学校だけでの支援には限界があります。家族の理解と協力も不可欠です。Karthikaらの研究では、うつ病による不登校の改善には家族の理解と協力が重要であることが指摘されています[2]。保護者に対する心理教育や家族カウンセリングの実施、利用可能な社会資源の情報提供などを通じて、家族全体をサポートすることで、より効果的な支援が可能になります。
このように、医療、教育、家庭の連携を基盤とし、適切な薬物療法、認知行動療法、段階的な学校復帰プログラム、環境調整、家族支援、多職種連携といった多様なアプローチを組み合わせることで、うつ病による不登校児童生徒の回復と学校復帰を効果的に支援することができます。もちろん、各児童生徒の状況は異なるため、個別のニーズに応じて柔軟に対応することが重要です。また、回復には時間がかかることを理解し、長期的な視点で支援を継続することが求められます。
◇早期発見と適切な介入
不登校とうつ病の関連性は非常に強く、不登校問題に対処する際には常にうつ病の可能性を考慮に入れる必要があります。早期発見と適切な介入が子どもたちの健全な成長と発達を支える鍵となります。教育関係者、医療関係者、そして家族が協力して、子どもたちを支える包括的なアプローチを取ることが、この複雑な問題に対処する最善の方法であると言えるでしょう。(了)
飯島慶郎医師
飯島慶郎(いいじま・よしろう) 精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士。島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。島根大学医学部附属病院にも勤務。
参考文献:
[1] Finning K, et al: The association between child and adolescent depression and poor attendance at school: A systematic review and meta-analysis. J Affect Disord. 245:928-938, 2019.
[2] Karthika G, Devi MG: School refusal - Psychosocial distress or Psychiatric disorder? Telangana J Psychiatry. 6(1):14-18, 2020.
[3] Kearney CA, Bensaheb A: School absenteeism and school refusal behavior: A review and suggestions for school-based health professionals. J Sch Health. 76(1):3-7, 2006.
[4] 田中恒彦: 子どもの行動の問題からうつ病に気づく. 精神医学 65(7): 1022-1027, 2023.
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(2024/12/02 05:00)
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