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トイレ自立の妙案 第44回

 ◇受けて立つ

 もとより女性は、子どもの世話になろうとは考えていない。娘がその気なら、受けて立とうと勢い込んだ。

 ケアマネジャーにその気持ちを伝えると「力になります」と頼もしい言葉が返ってきた。

 当面の課題は、排せつと入浴である。入浴については、どう考えても他人に手伝ってもらうしかない。
女性はケアマネジャーと協議の上、同性による介助を条件にデイサービスで入浴することに決めた。

 ◇排せつの問題

 問題は排せつである。何と言ってもおむつなしには、にっちもさっちもいかない体になってしまったのだ。原因ははっきりしないが、おむつの着用を続けるうちに、尿意のコントロールもできなくなっていた。

 病院では、看護補助者という看護師の助手のような人がおむつを替える。それは女性の長い人生経験の中で、最も屈辱的な時間となっていた。

 「退院したら、排せつだけは絶対に人の世話になりたくない」

 女性は強く思った。

 ◇できる事、できない事

 病院の相談室で、女性はケアマネジャーの助けを借りながら、今の自分にできる事、できない事を整理していった。

 「今の自分に歩くことはできないから、病院のトイレには行けないのだけど…」

 女性はその時、ふとひらめいた。

 「病院のトイレだからはっては行けないけど、自宅のトイレにならはって行ける。そうすれば、トイレに行って自分でおむつ交換ができるんじゃないかしら」

 ◇暫定的自立作戦

 その話を聞いたケアマネジャーは、「そのアイデアいただきます」と目を細めた。そして、退院までの10日間、病院の理学療法士を巻き込んで、「おむつによる排せつの自立」を仕上げることにした。

 やがて、自分で尿意のコントロールができるようになった。そして、再び歩けるようになるまで治療やリハビリを続けながら暫定的な自立作戦で乗り切ろうと女性は思った。(了)

 佐賀由彦(さが・よしひこ)
 1954年大分県別府市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。フリーライター・映像クリエーター。主に、医療・介護専門誌や単行本の編集・執筆、研修用映像の脚本・演出・プロデュースを行ってきた。全国の医療・介護の現場を回り、インタビューを重ねながら、当事者たちの喜びや苦悩を含めた医療や介護の生々しい現状とあるべき姿を文章や映像でつづり続けている。中でも自宅で暮らす要介護高齢者と、それを支える人たちのインタビューは1000人を超える。

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