女性化乳房〔じょせいかにゅうぼう〕 家庭の医学

 男性に乳腺の肥大が起こり、乳房が大きくなるものを女性化乳房と呼んでいます。生理的なものと病的なものがあります。肥満の人でも外見上乳房が肥大しているようにみえますが、これは脂肪の沈着によるもので乳腺の肥大ではありません。
 乳腺の肥大とともに痛みを伴うこともまれではありません。生理的には新生児期、思春期、あるいは高齢者にかなりの頻度でみられます。多くは両側の乳腺にみられますが、片側のみのこともあります。

[原因]
 女性化乳房の大部分は女性ホルモンの男性ホルモンに対する比率が高くなることが大きな原因と考えられています。乳腺の発達にはインスリン、副腎ホルモン、プロラクチンなど多数のホルモンが関与していますが、もっとも重要なのは女性ホルモンであるエストロゲンです。男性の血中にもエストロゲンが存在します。男性ホルモンのテストステロンはアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変化します。
 新生児期には母親から由来したエストロゲンによって、また、思春期には増加したテストステロンからエストロゲンがつくられるため男児の女性化乳房が生じます。高齢者では約半数に軽度の女性化乳房がみられます。睾丸(こうがん)から分泌されるテストステロンが減少することと、アロマターゼ活性が増加することによって起こると思われます。
 新生児期や思春期にみられる生理的なものは、一過性で自然に消えていくので治療の必要はありませんが、なかには病的な原因によることもあります。内分泌の病的な原因のものとしては、クラインフェルター症候群などの性腺機能低下症、一部の副腎過形成、下垂体プロラクチン産生腫瘍などがあります。そのほか、腎不全、肝硬変などでみられることがあります。
 また性腺ステロイド薬、抗潰瘍薬、血圧降下薬、抗精神病薬など一部の薬剤を服用した場合にも女性化乳房を呈することがあります。
 睾丸腫瘍、副腎腫瘍など一部の腫瘍が胎盤性ゴナドトロピンというホルモンを分泌するために女性化乳房を示すことがあります。まれに男性でも乳がんがみられます。

[治療]
 生理的な場合には治療は必要としませんが、痛みが強い場合や乳房が大きく心理的に問題となるようならば、エストロゲンの作用を抑制する薬剤を使用します。薬剤に反応せず、乳房肥大がいちじるしいときには外科的に乳腺組織を除去することもあります。病的な原因による場合は、原因となる病気の治療をおこないます。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)
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