価値観の多様化と変わる結婚観
価値観の多様化、女性の高学歴化による社会進出によって現代の女性のライフサイクルは近年大きく変化しています。法的な婚姻関係にない夫婦も以前よりはふえているといわれていますが、それでも日本ではまだその比率はきわめて低いと考えられています。人口動態統計によると、2019年は男女の平均初婚年齢は男性31.2歳、女性29.6歳で、24年前の28.5歳、26.3歳にくらべてそれぞれ高くなっています。実は女性の初婚年齢のピークは26歳台と、24年前と変わっていませんが、年齢の低いものの割合が低下し、高いものの割合が上昇しているため、平均初婚年齢は24年前とくらべて3歳以上も高くなっています。
いっぽう、50歳になった時点で一度も結婚をしたことがない人間の割合を意味する生涯未婚率も1970年代は男女ともに2%程度であったものが、2015年には男性は23.4%、女性は14.1%に上昇しており、現在も微増しています。日本の晩婚化は諸外国と比較しても顕著なものがあり、この現象は未婚で子どもをもつ女性が少ない日本において、晩産化を誘導するとともに出生率の低下にも直結しています。
日本の出生率(合計特殊出生率)は、戦後の第1次ベビーブーム(1947~49年)の最中である1949年には4.32、第2次ベビーブーム(1971~74年)の1971年には2.16を示しました。しかし、以後2005年(1.26)まで低下し続け、その後やや改善傾向を示しているものの(2020年1.34推定)、出産する生殖年齢女性の母集団の人数の低下とともに、出生数は低い値を推移しています。すなわち、年間出生数では、1949年の270万人以後、1973年には第2次ベビーブームで209万人と高い値を示しましたが、この第2次ベビーブームをピークに減少が続き、1975年190万人、2016年より100万人を下回り、2019年は86万5239人、さらに2020年は推定84万832人とされ、いわゆる少子高齢社会の諸問題が深刻化しています。
晩婚化・少子化の原因はいろいろ考えられており、近年、男女の結婚に対する意識が変わってきていることもあげられています。しかし、女性の社会で働きたいという意思の変化に対し社会的環境が必ずしも変化していないことも大きな要因にあげられるでしょう。仕事をもつ女性がふえているのに、出産を機に仕事をやめる人の割合は依然として高く、また出産・子育てが一段落したあとに仕事に戻りたい人がふえているにもかかわらず、社会の受け皿が十分でなく、再就職や復職、特に早期に職場に復帰することが容易でないという現実があります。
そうした状況をふまえて1997年に男女雇用機会均等法が改正され、妊娠・出産に関する健康管理の義務化が項目として加えられ(99年4月から施行)、98年には働く女性の母性保護規定が強化されました。また「健やか親子21検討会」が厚生労働省を中心に設置されて母子保健の課題と目標がまとまり、国民計画運動としての取り組みがおこなわれています。さらに、育児休業を最大3年間取れる制度の整備や待機児童を限りなくゼロに近づけるための保育園の増設や企業内の保育室設置の奨励、内閣府の男女共同参画基本計画に示された夫の家事・育児にかける時間の目標値設定などや子育て中の働く世代に柔軟に対応している企業をファミリーフレンドリー企業として表彰するなど、国もいろいろな施策をおこなっています。
しかし、高学歴化し、責任ある仕事につく女性がふえた日本において、女性が従来と同じく仕事を続けながら、安心して子どもを産み育てるための社会環境・職場環境は十分整備されているとはいえません。さらなる法律・制度の充実が急務となっています。また、イクメン、イクボスなどのことばが示すように、なにより職場の上司、トップ、パートナーで(夫)の意識の改革が十分ではありません。
こうした時代背景にあって性や結婚に対する従来の常識が表面的には変わりつつありますが、「結婚の医学」の基本的な考えかたは夫婦・母子の健康な生活を守り、維持していくことに変わりありません。
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子)
夫 | 妻 | ||
---|---|---|---|
1995年 | 28.5 | 26.3 | |
2005年 | 29.8 | 28.0 | |
2011年 | 30.7 | 29.0 | |
2012年 | 30.8 | 29.2 | |
2013年 | 30.9 | 29.3 | |
2014年 | 31.1 | 29.4 | |
2018年 | 31.1 | 29.4 | |
2019年 | 31.2 | 29.6 | |
注:各届出年に結婚生活に入ったもの。 |
いっぽう、50歳になった時点で一度も結婚をしたことがない人間の割合を意味する生涯未婚率も1970年代は男女ともに2%程度であったものが、2015年には男性は23.4%、女性は14.1%に上昇しており、現在も微増しています。日本の晩婚化は諸外国と比較しても顕著なものがあり、この現象は未婚で子どもをもつ女性が少ない日本において、晩産化を誘導するとともに出生率の低下にも直結しています。
1975年 | 1985年 | 1995年 | 2005年 | 2012年 | 2015年 | 2018年 | 2019年 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均年齢(歳) | 25.7 | 26.7 | 27.5 | 29.1 | 30.3 | 30.7 | 30.7 | 30.7 |
日本の出生率(合計特殊出生率)は、戦後の第1次ベビーブーム(1947~49年)の最中である1949年には4.32、第2次ベビーブーム(1971~74年)の1971年には2.16を示しました。しかし、以後2005年(1.26)まで低下し続け、その後やや改善傾向を示しているものの(2020年1.34推定)、出産する生殖年齢女性の母集団の人数の低下とともに、出生数は低い値を推移しています。すなわち、年間出生数では、1949年の270万人以後、1973年には第2次ベビーブームで209万人と高い値を示しましたが、この第2次ベビーブームをピークに減少が続き、1975年190万人、2016年より100万人を下回り、2019年は86万5239人、さらに2020年は推定84万832人とされ、いわゆる少子高齢社会の諸問題が深刻化しています。
母の年齢 | 1975 | 1985 | 1995 | 2005 | 2015 | 2016 | 2019 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
出生総数(人) | 1,901,440 | 1,431,577 | 1,187,064 | 1,062,530 | 1,005,677 | 976,978 | 865,239 |
14歳以下 | 9 | 23 | 37 | 42 | 39 | 46 | 40 |
15~19歳 | 15,990 | 17,854 | 16,075 | 16, 531 | 11,890 | 11,049 | 7,742 |
20~24歳 | 479,041 | 247,341 | 193,514 | 128,135 | 84,461 | 82,169 | 72,092 |
25~29歳 | 1,014,624 | 682,885 | 492,714 | 339,328 | 262,256 | 250,639 | 220,933 |
30~34歳 | 320,060 | 381,466 | 371,773 | 404,700 | 364,870 | 354,911 | 312,582 |
35~39歳 | 62,663 | 93,501 | 100,053 | 153,440 | 228,293 | 223,287 | 201,010 |
40~44歳 | 8,727 | 8,224 | 12,472 | 19,750 | 52,558 | 53,474 | 49,191 |
45~49歳 | 312 | 244 | 414 | 564 | 1,256 | 1,350 | 1,593 |
50歳以上 | 7 | 1 | - | 34 | 52 | 51 | 56 |
不詳 | 7 | 38 | 12 | 6 | 0 | 0 | |
(厚生労働省人口動態統計) |
晩婚化・少子化の原因はいろいろ考えられており、近年、男女の結婚に対する意識が変わってきていることもあげられています。しかし、女性の社会で働きたいという意思の変化に対し社会的環境が必ずしも変化していないことも大きな要因にあげられるでしょう。仕事をもつ女性がふえているのに、出産を機に仕事をやめる人の割合は依然として高く、また出産・子育てが一段落したあとに仕事に戻りたい人がふえているにもかかわらず、社会の受け皿が十分でなく、再就職や復職、特に早期に職場に復帰することが容易でないという現実があります。
そうした状況をふまえて1997年に男女雇用機会均等法が改正され、妊娠・出産に関する健康管理の義務化が項目として加えられ(99年4月から施行)、98年には働く女性の母性保護規定が強化されました。また「健やか親子21検討会」が厚生労働省を中心に設置されて母子保健の課題と目標がまとまり、国民計画運動としての取り組みがおこなわれています。さらに、育児休業を最大3年間取れる制度の整備や待機児童を限りなくゼロに近づけるための保育園の増設や企業内の保育室設置の奨励、内閣府の男女共同参画基本計画に示された夫の家事・育児にかける時間の目標値設定などや子育て中の働く世代に柔軟に対応している企業をファミリーフレンドリー企業として表彰するなど、国もいろいろな施策をおこなっています。
しかし、高学歴化し、責任ある仕事につく女性がふえた日本において、女性が従来と同じく仕事を続けながら、安心して子どもを産み育てるための社会環境・職場環境は十分整備されているとはいえません。さらなる法律・制度の充実が急務となっています。また、イクメン、イクボスなどのことばが示すように、なにより職場の上司、トップ、パートナーで(夫)の意識の改革が十分ではありません。
こうした時代背景にあって性や結婚に対する従来の常識が表面的には変わりつつありますが、「結婚の医学」の基本的な考えかたは夫婦・母子の健康な生活を守り、維持していくことに変わりありません。
(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子)