フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のSonia Berrih-Aknin氏らは、重症筋無力症(myasthenia gravis;MG)の薬物治療、副作用、併存疾患、日常生活の支障などに関する患者報告の実態調査MyRealWorld MGの結果をBMJ Open(2023; 13: e068104)に発表。さまざまな治療薬の存在にもかかわらずMG患者の疾病負担は小さくなく、生活や精神/心理に及ぼす影響の実態が浮き彫りになった。

日本含む先進7カ国でのデジタル観察調査

 MGは反復性の筋力低下を特徴とする自己免疫疾患であり、大半の症例でアセチルコリン受容体に対するIgG自己抗体が存在する。主に、眼や瞼、表情、咀嚼、嚥下、発話の制御が侵される。眼の症状が最も多く、患者の80%は全身型MGに移行する。

 MyRealWorld MGは、MG患者の実態把握を目的に先進7カ国(米国、日本、ドイツ、英国、イタリア、スペイン、カナダ)で行われている前向きの縦断観察研究で、患者報告アウトカム(PRO)を評価項目としている。研究のデザインやプロトコルの詳細はBMJ Open(2021; 11: e048198)に報告されている。

 指定のスマートフォンアプリをインストールし、参加に同意した成人MG患者を対象とした。各国の科学諮問委員会と患者アドボカシーグループがデータ取得や倫理的側面、コンプライアンスに関する助言を提供した。今回の解析対象データは2019年12月~21年10月に収集された。

80%以上がAChEIを使用

 2021年10月31日時点で1,806例が登録を済ませ、登録基準とデータ入力基準を満たした1,693例のデータを解析対象とした。全例が全ての項目・質問に回答したわけではないので、回答者数は項目・質問ごとに変動した(以下、回答者数をNで記す)。

 参加者の69%は女性であった(N=1,586)。平均年齢は49.9歳(N=1,563)、イタリア在住の患者が38.7%(N=1,693)と最も多かった。88.5%が全身型MG、11.5%が眼筋型MGだった。

 登録前の1年間に1剤以上のルーチン治療を受けた患者は83.7%(N=1,412)で、薬剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)が80.9%、ステロイドが65.4%、非ステロイド免疫抑制薬(NSIST)48.1%だった。NSIST(N=129)の内訳は、34.9%がアザチオプリン、30.2%がミコフェノール酸モフェチル、22.5%がタクロリムスだった。

 レスキュー治療については、30.8%(N=1,376)が過去1年以内に1剤以上を受けており、ステロイドが58.0%(N=424)と最も多かった。

副作用は疲労、筋攣縮、体重増加、気分変動

 登録前の30日間に副作用に起因する症状を経験したとの回答が67.1%(N=255)から得られた。頻度が高かった症状は疲労(65.5%)、筋攣縮(52.0%)、体重増加(48.5%)、気分変動(46.8%)だった。3分の1以上はさらに頭痛や発汗、下痢を報告した。重症度はグレード2(中等症~重症)との回答が最も多かった。

 64.6%(N=1,495)が1つ以上の併存疾患があると回答。甲状腺疾患(37.5%)、高血圧(31.4%)、不安(28.0%)が多かった。また、その他(選択リストにない病態)との回答も36.0%あった。

特異的PRO尺度や不安/抑うつスケールにもMGの影響

 MG特異的なPRO尺度では、日常生活動作(Myasthenia Gravis Activities of Daily Living;MG-ADL)スコアの平均点が5.7点(N=880)だった。内訳は5点未満が41.7%、5~7点が26.9%、8~9点が12.0%、10点以上が19.0%だった。また、QOL(MG Quality of life 15-item revised scale;MG-QOL15r)の平均スコアは11.9(N=895)だった。

 不安・抑うつ評価尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale;HADS)の不安スケールの平均スコアは8.3点(N=889)で、程度は軽度不安が22.5%、中等度不安が20.3%、重度不安が9.9%、正常(non-case)は47.4%だった。抑うつスケールの平均スコアは6.8点で、程度は24.5%、14.5%、4.2%、正常が56.8%だった。

 過去30日における仕事/勉強への影響に関して回答を得られたのは86例のみだったが、回答者は全例が仕事/勉強を中断したことがあると答えた。理由まで回答した61例のうち、57.4%は、MGが仕事/勉勉中断の理由であると回答した。また、仕事/勉強への影響について回答した人の72.9%に併存疾患の存在を認めた。

木本 治