新生児の1%超に認められる先天性心疾患(CHD)。発症にはさまざまな遺伝因子や環境因子の関与が報告されているが、母親の妊娠期の生活習慣との関連は十分に検討されていない。横浜市立大学エコチル調査神奈川ユニットセンターの河合駿氏、国立成育医療研究センター臨床研究センターデータサイエンス部門長の小林徹氏らの研究グループは、日本小児循環器学会と協同で「子どもの健康と環境に関する全国出生コホート研究(エコチル調査)」の大規模出生データを用いた母児の追跡調査を実施。児のCHD発症に関連する母親の6つの危険因子を同定したと、J Am Heart Assoc2023; 12: e029268)に報告した(関連記事「父親の化学物質曝露で児の心疾患リスク増」「出生前曝露がリスクとなる抗てんかん薬は?」)。

調整後オッズ比はビタミンAサプリで5.78、バルプロ酸で4.86

 対象は2011年1月~14年3月にエコチル調査に参加し、保護者による妊娠初期および中期に関する自記式質問票への回答が得られた3歳未満の児と母親9万2,944組。妊娠37週未満で出生した未熟児動脈管開存症、動脈管開存症の自然閉鎖または2歳まで存在した心房中隔欠損症、2歳までに改善した肺動脈狭窄、血行動態異常を伴わない心血管系の構造異常、CHD以外の心疾患(不整脈、心筋症、心腫瘍、川崎病など)を有する児は除外した。

 主要評価項目は児のCHDとし、出生時、1カ月時、6カ月時、1歳時、2歳時の診察で医師が診断したものと定義。CHDのタイプにより単純型(心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、動脈管開存症、大動脈狭窄、肺動脈狭窄など)、複雑型(三尖弁閉鎖症、単心室ファロー四徴症など)、不明に分類した。これまでに児のCHD発症との関連が指摘されている母親の因子〔①ベースライン特性(年齢、身長、体重、BMI、妊娠中期の血中ヘモグロビン濃度)、②不妊治療歴、③既往歴(CHD、アレルギー疾患、免疫疾患、神経・精神疾患、消化器疾患糖尿病腎疾患)、④社会経済的状態(最高学歴、世帯収入)、⑤生活習慣(アルコール摂取状況、喫煙歴、茶・コーヒーの摂取量)、⑥食習慣(肉類、魚介類、野菜、緑黄色野菜、豆類、蛋白質、脂質、炭水化物、ビタミンA、ビタミンC、αトコフェロール、ビタミンK、葉酸、摂取カロリー)、⑦妊娠12週までの薬およびサプリメント服用歴〕について、ロジスティック回帰モデルにより、児の3歳までのCHD発症のオッズ比(OR)を算出した。

 検討の結果、1,264例が3歳までにCHDと診断されていた〔単純型1,039例(1.13%)、複雑型181例(0.20%)、不明44例(0.05%)〕。

 単変量解析で有意差が示された因子を説明変数とした多変量解析では、児のCHD発症の危険因子として、母親のビタミンAサプリメント使用(調整後OR 5.78、95%CI 2.30~14.51、P<0.001)、バルプロ酸使用(同4.86、1.51~15.64、P=0.008)、降圧薬使用(同3. 80、1.74~8.29、P<0.001)、CHD既往歴(同3.42、1.91~6.13、P<0.001)出産時年齢40歳以上(同1.59、1.14~2.20、P=0.006)、妊娠中期の血中ヘモグロビン濃度高値(同1.10、1.03~1.17、P=0.003)-が抽出された()。母親の喫煙歴や飲酒歴、食習慣、不妊治療歴、社会経済的状態などとの関連は見られなかった。

図.児の先天性心疾患発症に関連する母親の危険因子

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(横浜市立大学プレスリリースより)

 以上の結果を踏まえ、河合氏らは「大規模出生コホート研究の解析から、児の先天性疾患発症に関連する母親の危険因子6つを同定した。既報から、ビタミンAの代謝産物であるレチノイン酸の催奇形性リスクや、バルプロ酸への出生前曝露による神経発達障害のリスクが指摘されており、今回の知見はこれらを裏付けるものだ。妊娠を希望する女性や妊娠初期の妊婦に対しては、ビタミンAを含むサプリメントの摂取を控えること、抗てんかん薬や降圧薬の使用について医師と相談することを勧めるべきだ」と結論している。

服部美咲