近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は進行・転移性がんだけでなくより早期の補助療法から使用されるようになってきているが、自己免疫疾患に類似した免疫関連有害事象(irAE)の発現が懸念されている。オランダ・Amalia Children`s HospitalのManuel A. Baarslag氏らは、妊娠中に投与した抗PD-1抗体ペムブロリズマブへの子宮内曝露により、生後4カ月で難治性の下痢と発育不全を呈し重篤な免疫関連胃腸炎となった乳児の症例をN Engl J Med2023; 389: 1790-1796)に報告した。

出生時は異常なし

 妊娠中のICI使用については、モノクローナル抗体の経胎盤移行を示す前臨床試験データがあり、流産胎児の発育不良、新生児死亡のリスクが増大するとの報告がある。今回Baarslag氏らは、妊娠第2〜3トリメスター後半にペムブロリズマブに胎内曝露し、生後に重篤な免疫関連胃腸炎を発症した乳児の症例を報告した。

 母親は26歳で、stage ⅢBの表在拡大型黒色腫と診断された。切除とセンチネルリンパ節郭清の後、術後補助療法を検討中に妊娠9週と判明。患者の希望も考慮した上で妊娠16週目にペムブロリズマブ投与(400mgを6週ごと)を開始した。

 最後のペムブロリズマブ投与から3週後の妊娠37週に、経腟分娩で3,300gの男児を出産した。出生時には児に異常はなかったが、生後4カ月で3週にわたる水様性下痢、6%の体重減少、経口摂取量の減少、嘔吐により来院した。経口液による水分補給で症状は軽減したが、粉ミルクの再開で症状が悪化し、三次医療センターに移送された。

粘膜充血、絨毛萎縮などを確認

 生後4.5カ月で非経口栄養を開始し下痢は改善したが、その後重度の低アルブミン血症および低ガンマグロブリン血症に加え、内視鏡検査により胃、十二指腸、結腸の粘膜充血、組織学的解析により十二指腸の絨毛の萎縮、慢性炎症、アポトーシスの増加が認められ、炎症に起因する蛋白喪失性腸症が示唆された。組織学的所見は成人における抗PD-1抗体関連の消化管疾患に類似していた。

 全エクソームシークエンス解析の結果、原発性免疫不全および早発性炎症性腸疾患に関連する既知の遺伝的変異は陰性だった。一方、自己免疫性腸疾患で見られる75kDa(harmonin)に対する血清抗体が確認された。

 血液検査ではPD-1とHLA-DRの発現の増加が確認され(HLA-DRは新生児の基準値では1%以下のところ、75%以上増加)、末梢T細胞の大部分が活性化している表現型を示した。活性化T細胞の増加は抗PD-1抗体療法を受けた成人患者でも観察されるため、ICIによって誘発される胃腸炎の可能性が示唆された。

妊娠中のICI投与は慎重にするべき

 以上から、症状の原因は免疫介在性であることが推定され、プレドニゾロン静脈内投与(1日当たり2mg/kg)を1週間行い、その後13週にわたり漸減した。下痢は大幅に改善し、経腸栄養を導入した。十二指腸生検で絨毛の萎縮が残存していたため、インフリキシマブ静脈内投与(0、2、6週目に5mg/kg)と維持療法を行った。

 入院10週で体重が正常まで増加し、退院した。2年後のフォローアップ検査で異常は認められなかったが、小児の自己免疫性腸疾患に対する治療レジメンに従い、3歳までインフリキシマブは継続し、内視鏡検査を定期的に行う予定である。

 Baarslag氏らは「ICIが出生後数カ月の児にも免疫関連有害事象を誘発する可能性を示しており、妊娠中は慎重に使用すべきである」と述べている。

(今手麻衣)