「Go Red for Women」は、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性のための循環器病の予防・啓発活動で、現在世界50カ国以上に広がっている。日本では、日本循環器協会(JCA)が2023年3月にAHAと「Go Red for Women」に関する協約を締結し、活動を展開している。今回、JCAは2024年2月2日に、協約締結後初となるイベントGo Red for Women健康セミナーを開催。講演とパネルディスカッションが行われた。赤いものを身に着けて循環器疾患を啓発する「National Wear Red Day」にちなみ、参加者全員が赤を身にまといイベント会場を訪れた(写真)。

米国に遅れること20年、日本でもようやく始動

写真.赤色に包まれた会場

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 かつて循環器疾患は、男性の病気というイメージがあった。しかし近年、微小血管狭心症や肺高血圧症など女性に多く見られる循環器疾患があること、同じ疾患でも自覚症状や検査値に性差があること、女性では自動体外式除細動器(AED)による救命率が低いことなどが明らかとなり、女性の循環器疾患についての啓発活動の重要性が指摘されるようになった。

 米国では、20年前から女性の循環器疾患に関する知識を深め、予防と早期発見の重要性を啓発することを目的とした活動が行われている。心臓病月間である2月の第1金曜日を「National Wear Red Day」と定め、赤いものを身に着けて循環器疾患を啓発するイベントが毎年開催されている。

 日本では、JCAが2023年にGo Red for Women Japanを立ち上げ、日本における女性の循環器疾患の予防・啓発活動を促進している。今回はAHAとの協約締結後、初となるイベントGo Red for Women健康セミナーを、今年の「National Wear Red Day」に当たる2月2日に開催した。

 大阪大学名誉教授の瀧原圭子氏による開会の挨拶から始まり、第1部の講演4演題、第2部のパネルディスカッションと続き、最後はJCA代表理事の小室一成氏による閉会の挨拶で締めくくるという盛りだくさんの内容となった。

心身の不調は、「我慢する時代」から「自ら改善する時代」へ

 講演では、女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道の高尾美穂氏が登壇。産婦人科医の立場から健康課題の男女差や、女性特有の月経などについて話した。

 健康課題は男女で異なり、発症しやすい疾患にも性差があるという。男性に多い疾患は高尿酸血症による痛風発作や糖尿病狭心症、心筋梗塞など、女性に多いのは貧血腰痛症、関節痛、うつ病などである。

 月経は女性特有の健康課題だが、女性の75%が月経随伴症状を有し、月経中に心身になんらかの不調を来しているとの調査結果がある。また、女性の70%が月経前症候群(PMS)を訴えているという報告もある。それにもかかわらず、月経随伴症状を有する女性の婦人科受診率は、高重症度の集団であっても35%程度と低い水準である。

 しかし、月経に関連するこうした心身の不調は低用量ピルで治療できる。同氏は「『月経は病気ではないから我慢する』時代から、『治療により調子のよい状態を自ら手に入れられる』時代に変わっていることを大人が認識してほしい」と強調。「罹患しやすい疾患について事前に知ることは、『転ばぬ先の杖』ならぬ、『転ばぬ先の知恵』となるはずだ」と知識を得ることの重要性を訴えた。

女性へのAEDは女性が率先して

 三重大学大学院基礎医学系講座分子生理学教授の坂東泰子氏は、「女性に知ってほしい心臓の話」と題して講演。循環器専門医の立場から、女性の胸痛AEDの使用状況における性差などについて話した。

 同氏が外来で最も多く遭遇する患者の訴えは胸痛。デンマークでは、胸痛で救急搬送された患者に占める心筋梗塞の割合は15%で、そのうちの4割が女性だった。「15%という数字はそれほど大きいとはいえないが、女性比率は高く看過できない」と同氏は言う。

 また、心停止の人を救命しうるAEDの課題について、女性でAEDによる救命率が伸び悩んでいる現状を説明した。理由は女性へのAED施行を躊躇する人が多いからで、女性へのAED使用率の低さは日本だけでなく国際的にも問題になっているという。同氏は「女性でないとできないこと、女性だからできることがある。女性が倒れていたら、女性が率先してAEDを使用してほしい」と訴えた。

 最後に同氏は、「今、女性の健康の在り方は自分で選べる。そうした意識を持つことが重要だ」と締めくくった。

(比企野綾子)