近年、小児の肥満や体力低下が問題視されており、適度な身体活動、運動への取り組みが推奨されている。小児の生活習慣を形成する上では両親、特に接する時間が長い傾向にある母親の影響が強いといわれる。東北大学大学院運動学分野の山田綾氏らは、環境省による「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)に参加した母児1,067組のデータを用い、母親の妊娠前~産後の身体活動レベルと児の身体活動レベルとの関連を検討するサブコホート研究を実施。母親の妊娠中および産後5.5年時の身体活動レベルと、児の5.5歳時の身体活動レベルに相関関係が認められたと、J Epidemiol2024年7月20日オンライン版)に発表した。(関連記事「両親の喫煙が幼児の血圧高値に影響」「肥満妊婦への生活習慣介入の児への影響は?」)

児が60分/日の運動を週5日以上行うオッズ比を算出

 朝食欠食、睡眠不足、スクリーンタイム(テレビ、スマートフォン、ゲーム機などの視聴時間)の増加など、生活習慣の変化や新型コロナウイルス感染症流行の影響で、小児の運動不足が社会的な問題となっている。運動不足は肥満や体力低下の一因となり、将来的な生活習慣病リスクとの関連も報告されている。健康上のメリット、リスクの緩和という点でも、活動的な生活習慣を身に付けることが重要だ。

 小児における生活習慣形成に際しては、一緒に過ごす時間が長い母親の影響を受けるとされる。そこで山田氏らは、エコチル調査に参加し宮城ユニットセンターの独自追加調査への同意が得られた母児1,067組(平均出産時年齢31.0歳、女児496例)を対象に、母児の身体活動レベルの関連について検討した。

 まず国際標準化身体活動質問票(IPAQ)を用いて、母親の①妊娠前、②妊娠中(第2~3期)、③出産後1.5年、④同3.5年、⑤同5.5年-の5時点における身体活動レベルを評価し、低強度群(1点)、中等度群(2点)、高強度群(3点)に分類。さらに、5時点の合計得点に基づき累積身体活動レベルで四分位(Q1~Q4)に分けた。

 次に、WHO Health Behaviour in School-aged Children(HBSC)日本語版を用いて、児の5.5歳時の身体活動レベルを評価。ロジスティック回帰モデルにより、母親の年齢、出産時年齢、BMI、妊娠合併症、教育年数、就労状況、世帯収入、高校時代のスポーツ活動、児の性、BMI zスコア、同胞数などを調整し、児の5.5歳時の身体活動レベルが中~高強度(1日60分の身体活動を週5日以上実施)となるオッズ比(OR)を算出した。

母の累積身体活動レベルと児の5.5歳時の身体活動レベルが正相関

 母親の累積身体活動レベルの四分位別に見ると、最も低いQ1の母親は全ての時点において高強度群に分類されず、身体活動量が0分/週と答える割合がQ4の母親に比べて多かった。Q4の母親は、高校時代にスポーツ活動をしていた割合が多かった(全体:46.5%、Q1:41.3%、Q4:52.0%)。

 解析の結果、母親の累積身体活動レベルが高いほど、児の5.5歳時の身体活動レベルが中~高強度となる正の相関が示された(Q2:OR 1.28、95%CI 0.58~2.83、Q3:同1.58、0.82〜3.05、Q4:同3.72、2.07~6.67、傾向性のP<0.001)。

 また、各時点における母親の身体活動レベルとの関連を見ると、妊娠中の高強度群(OR 2.24、95%CI 1.09~4.62、P=0.031)および産後5.5年時の高強度群(同2.38、1.27~4.46、P=0.010)と児の5.5歳時の身体活動レベルが中~高強度との関連が認められた。一方、妊娠前(P=0.378)、産後1.5年時(P=0.870)、産後3.5年時(P=0.093)については、中強度群、高強度群とも関連が見られなかった()。

図. 母親の身体活動レベルと児の5.5歳時の中~高強度の身体活動との関連

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(東北大学プレスリリースより)

 山田氏らは「妊娠期から育児期にかけて母親の身体活動レベルは変化するものの、高い強度を維持することで児の身体活動に好影響を及ぼすことが明らかとなった」と結論。ただし、「われわれの知見は環境省の見解とは無関係であり、今回の研究結果をもって妊娠中のアクティブな生活習慣を推奨するものではない」と付言している。

(小暮秀和)