気付きにくく治りにくい
高齢者に多い血管性認知症―ビンスワンガー病
ビンスワンガー病は血管性認知症の一つで、脳に広範囲に広がる白質病変を特徴とする。白質病変は、脳の深部で気付かずに起こった血流低下や小さな脳梗塞、出血で、磁気共鳴画像装置(MRI)で見ると大小の白い斑点のように映る。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)前理事長の鳥羽研二医師は「ビンスワンガー病は、早い人では50代から、多くは70代以降に発症します。脳の健康は、白質病変が握っているといっても過言ではありません」と話す。
脳の健康のため、定期的に脳ドックを受けよう
▽加齢と似た症状も
ビンスワンガー病の症状は、頻尿や尿失禁、嚥下(えんげ)障害や歩行障害、集中力の低下や手の震えなど多岐にわたり、重症化すると幻覚や妄想が表れることもある。ところがこれらの症状は、一般的な加齢による症状と似ている部分も多く、しかも徐々に進行するため気付きにくい。鳥羽医師も「多くの人が年のせいだと思い、内科や泌尿器科、整形外科など症状に応じた診療科を受診するため、見逃されているケースが多々あると思われます」と指摘する。
白質病変が、脳のどの部分に集中しているかでも症状は違ってくる。「ビンスワンガー病を含む脳血管障害に共通するのは、脳の前側にある前頭葉の血流が落ちるため、意欲の低下や軽いうつなどの障害が表れやすく、記憶は比較的最後まで保たれているということです」
▽白質病変の予防が大事
脳の毛細血管には血液脳関門と呼ばれる仕組みがあり、血液中の不要な物質が脳組織に入り込まないよう厳密にコントロールされている。白質病変があると、この仕組みが崩れ有害な物質が容易に脳に入り込み、不要な物質が排出できなくなる。結果として、脳細胞間のネットワークに障害が起こり、さまざまな症状が表れるのではないかと考えられている。
白質病変を作る一番の原因は、加齢と高血圧による動脈硬化だ。「白質病変は一度できてしまうと治りにくいので、食生活や生活習慣を見直して血圧のコントロールに努め、動脈硬化を防ぐのが唯一の予防法です」と鳥羽医師は強調する。
白質病変は気付かないだけで多くの人に存在し、ビンスワンガー病だけでなく、アルツハイマー病や脳梗塞のリスクにもなるという。鳥羽医師は「定期的に脳ドックを受けるほか、白質病変を増やさないよう生活習慣の改善に努めてください」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/08/29 16:13)