医学生のフィールド
移植医療の高みに挑む若手外科医に学ぶキャリア形成
医学生が企画、オンライン講演会
◇臨床の厳しさ、若手としての葛藤をどう乗り越えるか
医学部卒業後、肝臓移植手術への強いモチベーションから初期研修先は、アジアで最も有名な肝移植センターの一つである京都大学医学部付属病院を選んだ。自由で、希望すればとことん経験を積ませるというアカデミックな教育方針があり、一般の大学病院研修では任せられないような手技も経験した。医師として外科医の卵として大きく成長したと思っていた。
そこで出合ったのは、大学研修時代の恩師の「手術で助手を命じられたら、日本一の助手になってみろ。そうしたら誰も君を助手にしておかない」という言葉だった。ただ与えられた仕事をこなすだけではなく、自分がチームになくてはならない存在になるにはどのような能力が必要で、どういう努力が必要かを考え抜き、通常業務に加え、当時発展途上だった肝臓手術シミュレーションに没頭した。
厳しいが決して見捨てずに長い目で育ててくれた部長たちの下、京都大学外科交流センターにて連続して全国学会発表数上位となり、関西肝臓外科手術コンテストでの最年少優勝などの成績を収めた。仕事を自ら取りにいく姿勢と、それを支えてくれる環境が専門性の開花につながった。
◇北米最高峰の移植外科への留学に挑戦
専門医取得後は京都大学の肝胆膵移植外科の大学院に帰学し、2年目からカナダのトロント大学の移植外科に留学している。決まったルートにとらわれず、自分の知的好奇心と研究マインドに従って選んだ選択肢だった。
日本では、移植治療なら救える患者さんが、臓器提供不足によって移植治療を受けることができずに亡くなる現状がある。年間2200人が肝移植を必要としていると推察されるが、臓器移植法改定後も脳死ドナーの件数は十分ではない。現在の年間400例強から計算すると約5倍の手術数が必要という状態が続いている。
この難題への挑戦を考える中、研修医時代のメンターからトロント大学での手術見学を勧められた。トロント大学は北米一の移植手術数を誇るセンターであり、また「体外臓器灌流(Ex Vivo Machine Perfusion」(以下MP)といって、摘出した臓器を、人工心肺を用いて酸素と栄養を与えながら保存する世界最先端の技術を確立、肺・肝・腎において北米で初めて臨床試験を行った世界初の灌流センターでもある。
日本の大学院在学中の留学は、恩師たちとの出会いや運もあり、目指すのは難しいかもしれないが、医学部時代の留学経験や研究活動、研修医時代の国際学会での発表経験、手術技術などの積み重ねが評価される。進路に悩む若手医師には、一つのテリトリーに依存せず、積極的に周囲を見渡して、周到に準備してチャンスをつかみとってほしい。
(2020/07/31 07:00)