Dr.純子のメディカルサロン

VR使う救急医療技術の習得
~コロナで実習中止、効果と課題~ 横堀將司・日本医科大学大学院医学研究科教授に聞く

 ◆研修の手順と方法
 海原 VRを使う臨床研修の手順や方法を教えてください。


 横堀 それぞれの学生の視点を確認し、重要なポイントを確認し、指導を与える。その後、シミュレーターで実際の手技をやらせてみるという感じです。最後に実際の症例をVR体験させ、臨場感、緊張感を与えるという形で進めています。

視聴している学生たち(横堀先生提供)【時事通信社】

視聴している学生たち(横堀先生提供)【時事通信社】

 医学生や若手医療者が、救急医学のエキスパートスタッフによる診療を繰り返し疑似体験でき、場所や時間を問わず的確な診療手順を体得できます。

 学生の早期体験、モチベーションの上昇に伴う学習意欲向上にも貢献すると考えています。

リアルなイメージを実際のシミュレーションに投影させる(横堀先生提供)【時事通信社】

リアルなイメージを実際のシミュレーションに投影させる(横堀先生提供)【時事通信社】

 ジョリーグッドのVRゴーグルは、シングルモードがあり、個々の学生が自分のVRゴーグルを使ってコンテンツを学習できるようになっています。

 多接続リモートVRシステムという、遠隔地にあるVRゴーグルとタブレットを接続させ、VRゴーグルを一斉にコントロールすることができる機能もあります。

 新型コロナウイルスのまん延により、緊急事態宣言が発令され、医療系学生が大学病院で臨床実習することができなくなっています。最近では、VRコンテンツを用いた自宅学習も実施しています。

 VRゴーグルを医学生に送付し、ウェッブ会議システム(WEBEX)でつなぎながら、双方向性の授業を実施しています。学生のeラーニング・コンテンツとしても、十分に使用可能であることを確認しています。

各学生に送付したVRゴーグルを用い、手技の説明を行ったのちに、実際の中心静脈カテーテル挿入の手技を説明させつつ、教員がロールプレイを行う(横堀先生提供)【時事通信社】

各学生に送付したVRゴーグルを用い、手技の説明を行ったのちに、実際の中心静脈カテーテル挿入の手技を説明させつつ、教員がロールプレイを行う(横堀先生提供)【時事通信社】

 最近では、医学生のみならず、看護学生や薬学生を交え、多職種連携教育を実施しています。実地でしか体験できない、チームワークも体得することができます。


 海原 学生の反応はいかがでしたか?


 横堀 多くの好意的なコメントをもらいました。VRを用いて実際にその場にいるかのような状況で治療場面を共有できたため、「イメージがしやすく多職種での議論で、連携をスムーズに行うことができた」などの意見がありました。

 やはり、学生もリアリティーのある教育を強く求めていたと感じています。


 海原 指導する立場として、リアルの体験とどのように違いがありますか。


 横堀 患者さんに対面し、診察し、診断、治療を施す。これは一番知識の蓄積・定着が得られる手法であり、やはり臨床実習に勝るものはありません。VRでいかに患者さんの息遣いや、感触を出せるか、新しい課題だと思います。


 ◆今後の応用展開

 海原 今後このシステムを応用しての展開はあるのでしょうか。


 横堀 近年VRを使用し、より没入感のあるレクチャーを行うことの有用性を発表する論文も散見されます。アメリカ心臓協会(AHA)の心肺蘇生ガイドラインでも、心肺蘇生教育にVRの有用性が言及されてきました。

 VR教育ツールがわが国の救命救急医療の質を保ち、多くの患者の救命に貢献することで、「机上の学問」の概念を根底から変えることを強く期待しています。オンラインで医療現場と教室を直接つなぐシステムの開発にも、大きな期待を寄せています。VRで触覚や嗅覚なども表現し、よりリアリティーの高いものができたら、もっといいです。

横堀・日本医科大学大学院医学研究科教授

横堀・日本医科大学大学院医学研究科教授


 横堀 將司(よこぼり・しょうじ) 日本医科大学大学院医学研究科(生体侵襲管理学)修了、 医学博士。米国 マイアミ大学医学部脳神経外科、2020年から日本医科大学大学院医学研究科教授。日本救急医学会・日本脳神経外科学会の専門医・指導医、日本集中治療学会専門医。

(文 海原純子)









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