突然聴力に支障―突発性難聴
治療の遅れで後遺症も(近畿大学病院耳鼻咽喉科 土井勝美教授)
突発性難聴は、健康な人の耳がある日突然片方だけ聞こえにくくなる病気だ。治療が遅れると完治が難しくなる。「後遺症を残さないためには、いかに早く治療を開始するかが重要です」と近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)耳鼻咽喉科の土井勝美教授は話す。
ある日突然、片耳の聞こえが悪くなる
▽ストレスが引き金に
突発性難聴では、前触れなく片方の耳の聞こえが悪くなる。「キーン」という高音の耳鳴りやぐるぐる回るようなめまい、耳が詰まっているような感覚を伴うこともある。発症年齢は小児から高齢者まで幅広い。急激に発症し、例えば朝起きた時から、あるいは職場で作業中に急になど、いつから調子が悪くなったのかを明確に覚えているのが特徴だ。
原因は、はっきりと分かっていないが、音を感じ取って脳に伝える役割を担う内耳の感覚細胞や神経細胞が、ウイルス感染や血流障害によって傷つき、音情報の電気信号をうまく脳に送れなくなるからではないかと考えられている。
血流障害を起こす要因としては、高血圧、糖尿病などのいわゆる生活習慣病に起因する血管障害が挙げられる。これらの病気の治療を適切に行っておく必要がある。また、精神的・肉体的なストレスも血流障害の原因となる。「精神的なストレス、肉体的な疲労、強い緊張が続いた後などに突発性難聴を発症するケースが少なくありません」と土井教授。小児でも、両親の不仲、塾や受験などの強いストレスが発症の引き金になったと推測される例がある。
▽1週間以内に治療開始
突発性難聴の診断では、詳細な問診の上で、まず聴力検査を行う。似た症状を示すメニエール病や外リンパ瘻(ろう)、聴神経腫瘍などと識別する必要がある。聴神経腫瘍の有無は、磁気共鳴画像(MRI)検査で確認する。治療は副腎皮質ステロイド薬の内服や点滴が第一選択になり、発症後1週間以内の治療開始が重要である。内耳の血流を改善する血管拡張薬や末梢(まっしょう)神経の働きを整えるビタミンB12製剤を組み合わせる。ウイルス感染が強く疑われるケースでは抗ウイルス薬も使われる。治療期間は1~2週間。外来での通院治療が中心になるが、重症の場合は入院が必要となることもある。
突発性難聴は、発症して1週間以内に適切な治療を開始できれば完治が望める。それ以降になると治療成績は低下し、後遺症として難聴や耳鳴りなどが残る。「早期診断と早期治療が最も重要です。難聴、耳鳴り、耳閉感を自覚したらすぐに耳鼻咽喉科を受診してください」と土井教授は話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/08/06 05:00)
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